「“回復”はプレイヤーの時間を奪う要素だから要らない」──『サガ』生みの親・河津秋敏氏が語る、超鋭角な「攻める」ゲームデザイン論。最新作『サガ エメラルド ビヨンド』では短くかつヒリつくバトルを追求、「プレイヤーに同じような体験を何度もさせない」ことを目指した
ボスの強力な攻撃を受けてパーティは全滅寸前……HPを回復しながら、時に蘇生しながら、パーティを立て直しつつボスのHPを削っていく。RPGをプレイするうえで幾度となく見た光景である。 【この記事に関連するほかの画像を見る】 しかし、もしその「回復」がそもそもゲーム内になかったらどうなるだろうか? あまりに当たり前に存在するゆえ、回復が存在しないRPGでのバトルを想像できない方も少なくないだろう。 そんなRPGの当たり前の要素である「回復」を「プレイヤーの時間を奪っている要素」とし、バトルから排除したゲームが2024年4月25日に発売された『サガ エメラルド ビヨンド』である。 そもそも、『サ・ガ』(サガ)というRPGは、同じスクウェア・エニックスより発売されている『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』に限らず、他社のRPGとも比べ物にならないほど強烈な個性を持つ作品だ。 どれほど個性が強いかは、「レベルと経験値の概念がない」「種族ごとにキャラクターの成長過程が違う」など、初代『魔界塔士Sa・Ga』で導入され、以降のシリーズにも継承されているシステムが物語る通り。 また、1992年発売の『ロマンシング サ・ガ』で初めて導入された、プレイヤーの選択と行動次第でイベントが変化する「フリーシナリオシステム」も個性の強さを物語る象徴のひとつとなっている。 そうした個性の強さもあって、『サ・ガ』というRPGには刺されば”グッサリ”と刺さり、虜になって遊び込んでしまう面白さがある。 最新作『サガ エメラルド ビヨンド』でも、基礎部分は前作『サガ スカーレット グレイス』を踏襲しつつ、バトルを始め、個性の強さが滲み出たゲームデザインは相変わらずだ。 このたび、電ファミニコゲーマーでは、そんな『サガ』シリーズ生みの親であり、今作の『サガ エメラルド ビヨンド』でディレクターとシナリオを手がけた河津秋敏氏にインタビューする機会を得た。 なぜここまで個性の強いゲーム作りに挑み続けるのか。回復をなくし、さらにはショップも排除した、今作で目指したRPGの形とは。河津氏のゲーム作りにおける考えや背景に迫った。 さらに本作は、バトルのゲームバランス調整にディープラーニング型AIを採用した、スクウェア・エニックスとしては初の事例ともいう。 今作でバトルディレクターを担当した柴田伯一氏、同社のリードAIリサーチャーである三宅陽一郎氏にも同席いただき、AI導入に至るまでの経緯や実際にどう活用したのかについてもお話を伺った。 聞き手/TAITAI、実存 文/シェループ 編集/竹中プレジデント 撮影/増田雄介 ■RPGでは当たり前に存在する「回復」と「ショップ」をなくした理由 ──「回復」というのはこれまでのRPGにおいて当たり前に存在している要素だと思うのですが、『サガ エメラルド ビヨンド』では回復がないとお聞きしています。なぜRPGのバトルから回復という存在を排除したのでしょうか? 河津秋敏氏(以下、河津氏): 自分としては、回復はバトルを引き延ばしてプレイヤーの時間を奪っている要素だと思っているんです。ゲームに縛り付ける時間を長くするだけの要素で、必要性を感じないんですね。 ──回復はユーザーの時間を奪っている……ですか。これまでRPGには当たり前に存在していた要素なだけにその視点は驚きです。 河津氏: それに回復があると、回復役に盾役に攻撃役にと、パーティ編成が固定化されてしまうじゃないですか。そうすると自由度がなくなる。 自分自身、HPが削られるのが嫌いなのでどうしても守りを固めて回復で万全な状態を維持して……と戦ってしまいがちなんです。 ですから、自分がゲームをデザインするときは逆にそうならないよう「できるだけ攻撃的にプレイしたほうが有利になる」よう作りたいと考えています。 ──河津さんとしては、プレイヤーには持久戦より短期決戦を楽しんでほしいわけですね。 河津氏: はい。ですから「回復はいらない」「戦闘にかかるターン数も短くしたい」とオーダーしました。プレイヤーにはヒリヒリした戦闘を体験してもらいたい。戦闘にかかるターン数が短くなると激しいどつき合いになるので。 柴田伯一氏(以下、柴田氏): 「回復なし」というオーダーがあったときは、正直「どうなってしまうんだろう?」という心境でした。実際、調整も難しかったです……。 RPGにおけるボス戦のゲームデザインって「強力な攻撃を食らってHPが削られ、MPというリソースを消費しながら回復魔法や蘇生魔法で立て直しながらボスにダメージを与えていく」の繰り返しが基本なんですよね。 これまでのRPGにおいて当たり前に存在したものが使えないとなると、どうすれば盛り上がりを演出できるんだ……? と。 河津氏: 回復がないと「楽勝」か「あっという間に全滅」か、バランスがピーキーになりがちですからね。適切なバランスを見極めるのはすごく大変だったんじゃないのかなと思います。 前作『サガ スカーレット グレイス』の経験からして、回復なしでもバトルが成立することはわかっていたので、今作でも大丈夫だという確信はありました。 ただ、加えて今作では「お店(ショップ)」もなくなったので、調整はさらに大変だったと思います。 ──回復に限らず、ショップというRPGにおけるお約束の施設もなくすとは! 非常に大胆なことをされましたね。 河津氏: 前作は、装備などを強化するショップはあったんですが、その程度であればメニュー画面から直接できるようにすればいいと思ったんです。オンラインショッピングと同じです(笑)。 ですから、今作ではメニュー画面から自分の好きなタイミングで装備を強化できるようにしています。意外と、ショップがなくても成立するんですよ。 柴田氏: ただ、ゲームバランスを調整する側としては、かなり苦労しました……(笑)。 ショップがないということは、「プレイヤーがいつ、どの装備を手に入れる」かのコントロールができないことを意味していますから。 河津氏: RPGにおけるショップは、ゲームデザインにおけるひとつの閾値(しきいち)なんです。 『ドラゴンクエスト』が典型的な例ですが、新しい町や村に訪れると上位の武器や防具が手に入るので、強い敵が楽に倒せるようになる……というものですね。 つまり、ショップがあるおかげで「先に進めば進むほど、自分も敵もだんだん強くなっていく」というわかりやすいレベルデザインとなるのですが、本作ではそのショップがないので、「だんだんとインフレしていく」ようにコントロールするのが難しいんです。 柴田氏: そのため、どんなバトルが発生するのかをシミュレーションして、「こういうプレイをしたら確実にこの装備は持っているだろう」と想定しながら調整をする必要がありました。 ただ、どうしても想定外の遊び方をするプレイヤーは出てきてしまうので……その場合は想定外の苦戦を強いられることにはなります。そこはもう、厳しいお言葉をいただくことになっても仕方がないと、割り切っての挑戦になっています。 ■前作でダンジョンやマップを削ったのはやり過ぎだった ──そもそも河津さんが、「回復」「ショップ」と、従来のRPGでは当たり前にあった要素をなくそうと考えるようになったのはなにか理由があるのでしょうか? 河津氏: ゲームですから、面白いことだけをしていれば十分だと思うんです。 回復が「プレイヤーの時間を奪う要素」に過ぎないのであれば、ショップも「なくても成立」するなら、なくてもいいですよね。 現実の場合は仕事をされている方もいますから、お店がなくても成立するわけではないですし、もしお店がなくなると配達する人たちが忙しくなってしまうじゃないですか。でも、ゲームはデジタル世界ですので、現実に倣う必要なんてない。思いついたらどんどん試していける。 ──回復が「プレイヤーの時間を奪う要素」というお考えについては、いつごろからお持ちなのでしょうか。 河津氏: もともと「なんとかならないのかな?」という思いは微かにあったんですが、強く思うようになったのは、ソーシャルゲームが出始めたころからだと思います。 課金により「時間を買う」システムが出てきて、最初は自分自身「これっていいのか?」と感じていましたけど、思い返せばそれがきっかけのひとつでしたね。 ──なるほど。ちなみに、RPGに当たり前にある要素で「回復」と「ショップ」以外に、河津さんとして「これは必要ないんじゃないか?」と試してみたものってあるんですか? 河津氏: じつは「マップは必要ないんじゃないか?」と考え、フィールド以外のダンジョンやマップを取り除いてみたことがあります。 たとえば、A地点から目的地のB地点に移動する際の移動時間って、極論を言えば無駄ですよね? かといって、AからBに移動するためにファストトラベル的な機能を入れてしまうと「目的地に到着するまでの空間はなんのために作られたのか?」となるじゃないですか。 それで思い切って取り除いてみたのが前作の『サガ スカーレット グレイス』だったんですが……あれはやり過ぎでしたね(笑)。 一同: (笑)。 河津氏: なぜやり過ぎだったかと言うと、ビデオゲームでは、「プレイヤーがキャラクターを操作している感覚」がものすごく重要だからなんです。だから移動で動かしている時間はまったく無駄じゃない。その時間があるからこそ、プレイヤーとキャラクターが一体になれるんです。 『スーパーマリオブラザーズ』が分かりやすい例なのですが、ゲームをプレイしていてマリオが思い通りに動いてくれるだけでも楽しいじゃないですか。この感覚がビデオゲームの基本中の基本なんですね。 そのことは、前作でマップを完全に削ったことで、改めて痛感しました。なので今作はマップ上を動くゲームにしようとなったんです。 ──一度削ってみて改めてその重要性に気づかされることもあるんですね。 河津氏: やはりRPGには数十年積み重ねてきたものがあるので、「本当に必要だから残っているもの」が多いんですよね。 ただ、その常識を疑うこともゲーム作りにおいては大事なことですから、難しくもあります。 ──ゲームクリエイターとしてキャリアの長い河津さんですが、いまだに攻め続けるその姿勢、めちゃくちゃすごいですね……。 河津氏: 僕はどちらかと言えば「攻める役」なので、攻めなければという意識はあります。 うちの会社は『ドラクエ』や『FF』など、人気タイトルがありますので許してもらえているのかもしれません(笑)。許されている間は、自分が思う「面白いゲーム」を追及していきたいですね。 ■テストプレイ中に「ロマンシングが足りない!」と指摘が入った ──ここからは今作『サガ エメラルド ビヨンド』の立ち上げの経緯についてお聞きしていければと思います。まず、今作はどのような作品を目指して開発を始められたのでしょう? 河津氏: 前作の『サガ スカーレット グレイス』は、ダンジョンマップの探索や消費アイテムの管理といった定番システムや遊びをカットし、必要最低限の要素だけでコマンドRPGを組み立てることを目標にしていました。 それが達成できましたので、「次は探索要素などを少し足して、最低限から広げていこう」として始めたのが今回の『サガ エメラルド ビヨンド』となります。 バトルシステムでは前作でも1ターンにおける味方、敵の行動が表示される「タイムラインバトル」の仕組みを入れていましたが、今回はそれをどのように発展させていくのかを課題として掲げています。 ──今作ではバトルのディレクターを柴田さんが担当されていますが、バトルについては柴田さんがいちから形作っていったのでしょうか。あるいは河津さんの方からイメージを伝えられ、柴田さんが仕上げていったのでしょうか。 柴田氏: 自分がチームに合流した頃にはバトルの企画はほとんど完成していて、プロトタイプも動いている状態でした。ですので、自分からバトルに関して新企画を盛り込むことはほとんどなかったです。 ──なるほど。柴田さんから見て、『サガ』シリーズのバトルにはどのような特徴があると思われているんでしょうか。 柴田氏: 自分のイメージですと、『サガ』シリーズのバトルは「難しい」「頭を使う」、そして「こんなシステムが入っているんだ!?」との意外性があることでしょうか。 ほとんどユーザーさんの目線と変わらないんですが、直接体験してみないと分からないのが『サガ』シリーズのバトルの特徴かなと思います。 ──確かに。私の主観ですが、『サガ』シリーズのバトルって感情の振れ幅が大きいように感じます。 柴田氏: それはまさにその通りだと思います。今回、バトルのテストプレイ中に他の開発スタッフから「ロマンシングが足りない!」と言われたことがあったんですよ(笑)。 一同: (笑)。 柴田氏: いきなり何を言っているのかと(笑)。ただ、詳しく話を聞いていくと、言わんとしていることはわかるものでした。 今作の戦闘では、事前にタイムラインの配置があり、連携を組み立てることができるのが特徴なのですけど、それだけでは面白味が足りないと言われたんですね。 それは本当にその通りで、意外性が不足していたんです。それもあって感情が揺れ動くこともなく、「ロマンシングが足りない!」のひと言が出てきたのかなと思います。 ■「プレイヤーに同じような体験を何度もさせない」を目標にバトルを設計 ──そんな「ロマンシングが足りない!」と指摘が入ったバトルをどのように手を入れ、『サガ』シリーズ特有の感情が揺れ動くバトルに作り上げていったのでしょう。 河津氏: プロジェクトで掲げていたのが「プレイヤーに同じような体験を何度もさせない」ことでした。 そもそも、プレイヤーに同じ行動を繰り返させることは、ビデオゲームにおけるひとつの手法ではあるんです。RPGですと「同じ敵と何度も戦ってどんどん強くなっていく」「コマンドを決定し続ける」などが挙げられます。 そんな中で、同じことが起きないように、同じように見えても少し変化があるようにすることで、常に新鮮な体験をしてもらえることを目標としていました。 ──具体的にどのような変化を盛り込んでいったのでしょうか。 河津氏: 本作のバトルは、タイムラインという形で味方と敵がどんな順番で行動するかを可視化しているのですが、その並び順は毎ターン入れ替わります。 入力できるコマンドは同じなんですが、ターンごとにシチュエーションが変化していくんです。そのなかで、バトルとして「ヌルくなり過ぎず、かといって追い詰め過ぎず」という緊張感のバランスをとりつつ、面白さを演出していくのが勝負所でした。 柴田氏: そんな今作のバトルのキモとなっているのが、「オーバードライブ」と「独壇場」のふたつのシステムです。 「オーバードライブ」は条件を満たすことで追加の連携攻撃ができるシステムになっています。バトル中に連携すればするほど「連携率」という値が加算されていき、一定以上に達することで、もう一度連携が発生するんです。これにより同じ状況でのバトルでも変化が生まれるようになりました。 「独壇場」はひとりで連携するシステムで、タイムラインの左右隣の2マスに誰もいなかった場合に発動します。バトルが進んで敵も味方も少なくなってくると、チマチマした戦いになりがちだったのですが、今作ではこの「独壇場」があることで最後まで「やるかやられるか」の緊張感のあるバトルが味わえるんです。 ──パーティがひとりだけになるという絶望的な状況でも大逆転を狙えるし、逆に敵が1体だけになっても最後まで油断ができないということですね。 柴田氏: そうなんです。このふたつが嚙み合った時は「面白いバトルになっている」という手応えを感じました。 ──今作に限りませんが、河津さんは『サガ』シリーズ全体でバトルについてはどのように関わられているのですか? 河津氏: もちろん要所要所では議論はするのですが、基本的にはバトル担当のスタッフにお任せです。 今作はフリーシナリオであることもあり、プレイヤーが自由に物語を進めていく中で、ゲームとしての面白さを担保する必要があるんです。その面白さをバトルに担ってもらうというのが今作、もっというと『サガ』シリーズにおけるゲームデザインとなっています。 ですから、バトル担当のスタッフには、常にゲームとしての面白さを追及してもらいたい。そのために独自に動いてもらっていますし、僕からはあまり口を出さないように心がけています。バトル側からすれば、思うところがあるんじゃないかなと思いますが(笑)。 柴田氏: おっしゃる通り、基本的には任せていただいています。ただ、時々ピンポイントで強いオーダーが飛んでくることはあって。 今作だと「バトルでの回復なし」「ショップもなし」がそうですし、「独壇場」も前作のバトルの反省を踏まえて、河津さんが入れたいと強くプッシュされて導入したシステムでした。 ■「はい・いいえ」じゃない選択肢 ──『サガ』シリーズは、先ほど話にあがったバトルに限らず、シナリオについても感情の振れ幅が大きいように感じます。とくに選択肢は独特ですよね。 河津氏: それについては、初めて『ドラゴンクエスト』で選択肢を見た時に「もったいないなあ……」と感じたことが影響しています。 ローラ姫がプレイヤーに「私も連れて行って」と言った後、「はい・いいえ」と選択肢が出るじゃないですか。あの時、僕はどうして「はい・いいえ」の選択肢なんだろう? と思ったんです。 ──と言いますと? 河津氏: 「はい・いいえ」だと、個人的には「事務的な表現」の印象がするんですよね。たとえば、その「はい」を「いいよ」にするだけでも、プレイヤーが受け取る印象や感情がすごく変わるじゃないですか。 もちろん、あれは堀井雄二さんの味と言いますか、「はい」と選択することに意味を込めていたのだと思いますけど、プレイヤーからすれば「俺はひとりで旅をしたいんだよ!」と、「はい」を選びたくない気持ちもある。 その結果、当時は「『いいえ』を99回選び続けたら断れる」みたいな伝説も生まれて、それを信じて延々と「いいえ」を選び続ける人間が間近にいたりしましたし(笑)。 ──ハマっていたプレイヤーで同じ想いの方は少なくないと思います(笑)。 河津氏: その点では、『ロマンシング サ・ガ』のガラハドに関する選択肢はわかりやすい例かなと思います。 彼の持っているアイスソードを入手するのが目的のイベントで、「お願いして譲ってもらう」か「殺してでも奪い取る」かの選択肢があるのですが、純粋な「はい・いいえ」とは選択肢を選ぶときのプレイヤーが受ける感情が違ってきますよね。 これはプレイヤーが「殺してでも奪い取る」を選べないようにあえてショッキングな表現にしているんです。でも、殺して奪うこともできる。葛藤があるなかで、どう行動するか決断する……それこそが、まさにプレイヤーの選択じゃないですか。 プレイヤーが自分を主張する場を作れた。これはそれまでのゲームとは異なるものを作れた実感がありました。自分にとって、RPGの遊び方を広げられたと思う部分でもあります。 ■自分の感性を信じていない。シナリオに必要なのは技術 ──先ほどバトルについてはある程度お任せしているとのお話がありましたが、『サガ』シリーズのシナリオについて河津さんはどのように関わられているのですか? 河津氏: バトルと違って、関わりという意味だとかなり深いと思います。シナリオ執筆は複数人で担当していますが、最終的に僕が原型が残らないくらいほとんどいじっちゃいます。担当してくださった人には申し訳ないんですけど……。 ──バトルとは真逆ですね。ディレクターがシナリオについてそこまで管轄するというのはなにか理由があるのでしょうか? 河津氏: 「二度手間を防げること」が一番の理由でしょうか。全体のシナリオ構成を知っているのは自分だけなので、それぞれの担当者とやりとりして修正してもらうより、直接自分が書いちゃったほうが早いんです。 とくに“てにはを”のニュアンスは、人によって受け取り方が微妙に違ってきますし、それ自体が書き手の個性としても現れます。そうすると、人が書いたものだとしっくり来ないものがどうしても出てきてしまう。 その部分を修正するためのやりとりが発生すると、自分にも相手にもストレスが溜まってしまって、何を書いてもダメみたいなことにもなるんですね。 ──修正のためのやりとりに時間と労力が発生してしまうのは、複数人体制の悩みですよね。 河津氏: ただ、「泣かせる話」や「ギャグ話」などは自分よりも得意な方がたくさんいらっしゃいますから、そういうシナリオはそのまま使います。自分はそういった話を上手く書けませんので(笑)。 ──河津さんのシナリオやテキストは先ほどの選択肢がそうですが、プレイヤーの感情を揺り動かしてくる表現が特徴になっているじゃないですか。ああいった表現を生み出す際の工夫とか、考え方みたいなものはあるのでしょうか。 河津氏: 「モノづくりに感性は大事」とよく言いますが、自分は感性については信じていないんです。そんなものは存在しないんですよ。 必要なのは技術であって、それを磨いてやるしかないと思います。文章にしたって、大半は技術ですからね。感覚的なものが入る余地ってないはずなんです。 先ほどお話した『ロマンシング サ・ガ』でガラハドからアイスソードを手に入れる際の選択肢も、「お願いして譲ってもらう」と「殺してでも奪い取る」と極端なものを並べる技法でしかないんです。 理詰めで楽しさを演出している感じはあります。自分としては、感性に頼って書いているわけではないという意識は強いですね。 ──『サガ』シリーズの印象的な台詞やテキストの数々が技術で書かれていたとは驚きです。 河津氏: 自分は、翻訳モノの小説を読む機会が多かったので、それも文章に影響しているように思います。 英語から翻訳されたストーリーって主語述語があって理詰めに書かれているじゃないですか。日本人が書いた文章だと、あのような感じにはならないんですよね。それもあってか、自分は翻訳調の文章が好きなんです。 谷崎潤一郎の小説とか読んでいると、「や、やめろよ……!」とゾワゾワするほど感じちゃう性質なものでして(笑)。どちらかというと、ちょっと他人行儀な感じの文章が好きなんですね。 柴田氏: そのお話を聞いて、すごく腑に落ちましたよ(笑)。 河津氏: そうなの?(笑) 柴田氏: 自分が『サガ』シリーズで好きなのが選択肢なんですけど、あれって「罰せられない」じゃないですか。ガラハドを殺してアイスソードを奪ったとしても、周りのキャラクターからボロクソに責め立てられたりしませんし。 ただ、自分の心の中に「やっべえ……ガラハド殺しちゃったよ……」と罪悪感は残る(笑)。あの“他人行儀な感じ”が自分にとって『サガ』の好きなところなんですね。 ■かつてTRPGで体験した感動をデジタルゲームでも再現したい ──少し本題から話はそれるのですが、河津さんは他作品はよく遊ばれるのでしょうか。 河津氏: 昔はウォーシミュレーション(戦争系のゲーム)が好きで、そればかり遊んでいましたが、最近はプレイする時間がとれないこともあり、あまり触れられていないですね。 1990年~2000年あたりは洋ゲーをよく遊んでいたのですが、アメリカで任天堂さんの「SNES」【※】がものすごく売れた影響で、日本的なゲームが増えて自分が好きな洋ゲーが減ったこともあり、離れてしまったんです。 ──デジタルゲームに限らず、TRPGやアナログゲームも嗜まれていたとお聞きしています。 河津氏: それらも最近は機会がめっきり減ってしまいましたけどね。昔はプレイヤーとしてもゲームマスターとしてもTRPGはかなり遊んでいました。 そのときのTRPGで体験したさまざまな感動をデジタルのゲームの中にも入れたいという思いがすごくあります。そのころの経験は『サガ』シリーズでも活かされていますね。 ──『サガ』シリーズで活かされているというのは具体的にどのような体験なのでしょう? 河津氏: TRPGで遊んでいると、演技や会話や立ち回りがすごく上手なプレイヤーと出会うことがあるんです。 その人のプレイを第三者の視点から見て「すごいなお前!」って興奮している時の感覚をデジタルゲームでも再現したい思いがあるんですね。 ──上手なプレイヤー、ですか。 河津氏: TRPGは会話をしながら物語を進めていく遊びなのですが、起きるイベントや結末はある程度は決まっているんですね。その結末へ向かう時、場がグッと盛り上がるようなロールプレイがメチャクチャうまい人がいるんですよ。 そういう人と一緒に遊んだときの感動はものすごくて、その体験を自分の関わるゲームでも取り入れたいと昔からずっと思っているんです。 ──その「お前、すげえじゃん!」と感動を覚えた具体的なエピソードってあるのでしょうか? 河津氏: ちょっと長くなりますけど……いいですか? ──ぜひぜひ! 河津氏: では…………昔、フリーの冒険者がいまして、仲間たちと一団を組んでいたんですね。自分はその一団のボスだったんですけど、今は引退して解散し、仲間たちも店を営んでいたんです。 自分は宿屋をやっていたんですけど、ある日、ならず者に襲撃されてしまい、自分は重傷を負って意識不明に。副団長をやっていた「マリア」という名の奥さんが殺されちゃうんです。 その事件を昔の仲間が、もうひとりの仲間がいる修道院に伝えに行くんです。ただ、その報せに行く仲間と修道女は昔、付き合っていて別れた設定なんですね。 それでいざ、修道院に行ったら「何しに来たんだ!」って痴話喧嘩が始まってしまって、一向にマリアが殺されたという本題が始まらない。 TRPGですから、この後の流れはマリアが殺されたことを伝えることで確定しているんです。でも延々に痴話喧嘩が続いてしまって、ついには修道女から「もういいから出ていけ!」って言われてしまうんですよ。 それで、その仲間が家から出ていくその瞬間、振り返ってぼそりと「マリアが死んだ……」と。 周りのプレイヤーみんなが絶句ですよ! 一気に場が静まりきって「うわー、すげー!」ってなりました。まさに舞台を観に行ったような感じで、こんな体験を味わえるのかと感動したんですね。 ──昔付き合っていた設定から本筋とは関係ない痴話喧嘩をすることで、マリアが殺されたことを告げるシーンを劇的に演出したということですよね。プレイヤーのアドリブで。 河津氏: そうなんです。この先に起きる出来事はわかっているのに感動しちゃう、という。これをデジタルのゲームでもみんなに体験してもらいたい、と常々思っているんです。 自分がこれまでゲーム作りを続けていられるのは、その時の彼のおかげかもしれません。 ■AIならバランス調整やデバッグ作業を24時間し続けてくれる ──ここからは話題をガラリと変えて、『サガ エメラルド ビヨンド』の開発にAIを活用されたことについてお聞きしていければと思います。「AIを活用」とひと言で言ってもいろいろな形があると思うのですが、今作ではどのような形で導入されたかお伺いできますか。 河津氏: 形としては、バランス調整やデバッグ作業などバトルの開発サポートとしてですね。柴田くん的にはどうだったの? 柴田氏: 最後のデバッグ作業の時が一番役に立ちましたね。AIは人間と違って24時間稼働してくれるので。本当に愚痴をひとつもこぼさずものすごい勢いで働いてくれました(笑)。 一同: (笑)。 柴田氏: 今作は500以上のバトルが用意されているので、もし人間が全部デバッグをしようとするとそれだけで1~2ヵ月はかかってしまうんです。 しかも、ゲームバランスは常に調整していて、仕様を変えることもあります。すべてのバトルを確認し終えたとしても、そのころには最初のバトルのゲームバランスは変わっている……なんてことも少なくないんです。 そういう時、AIなら最新の状態のゲームを短時間ですべて確認してくれます。たとえば、週末にテストプレイを走らせると、週明け月曜には解析が終わっていて報告レポートがあがっているんです。これはもう、AIじゃないとできないことだと思いました。 ──テストプレイを走らせるというのは、AIに実際にプレイしてもらっているということですよね。どういう状況でプレイしてもらっているんでしょう。 三宅陽一郎氏(以下、三宅氏): 大量のパソコンを用意して、その中で「AIワーカー」と呼ばれるAIがさまざまなバトルをプレイしていくという感じです。 1バトルごとにスクリプトを書いていくと、たとえば500個のバトルのデバッグプレイに500個のスクリプトを作ることになってしまうので、AIに自動的に学習させていこうとなりました。いわゆるディープラーニングによる強化学習ですね。いろいろな設定で学習したAIがゲームをプレイし続けるのです。 とにかくAIにプレイしてもらって、失敗したら結果から計算を繰り返してAIに学習させていく。結果として毎週800バトルをAIが自動的に行う体制になりました。 とくに開発終盤ではパラメータをはじめとする変更が大きく入ることで、バランスが崩れてしまわないかどうかについて、AIを活用することでその面では大きく貢献させていただけたのかなと思います。 ──たとえば、バトルの難度が高すぎるとAIがそこで行き詰まって報告がある、みたいなイメージでしょうか? 柴田氏: そうですね。たとえば勝利数が0になるときがあります。ただ、ここでひとつ弱点があって、AIが間違っているのか、ゲームデザインが間違っているかの判断は、人間がしなくてはいけないんです。 ゲームバランスが取れていない事態もあり得ますが、そもそもAIの行動に問題がある可能性もある。原因がひとつとは限らないですし、そこが本当に難しいところです。 ですから、そこは直接人間が見て、「このボスは勝てなくても仕方がない」となることもあれば、「勝てるはずなのになぜ?」といった異変も確認する必要があります。異変をきっかけに調べると、入力されている値がバグを引き起こしていることが発覚したり、そういう問題点を見つけてくれる点で役に立ちました。 ■スクエニ初のバランス調整にディープラーニングAIを導入した開発事例となる『サガ エメラルド ビヨンド』 ──本作の開発にAIを導入することになった経緯については、どのようなものだったのでしょうか? 三宅氏: もともとは河津さん、柴田さんから「ゲームバランスの調整にAIを使えないか」とのご要望をいただいたのがきっかけになります。 そこから1年弱くらい、柴田さんのバトルチームと議論させていただきまして、スクウェア・エニックスとして初の事例になるのですが「バランス調整にディープラーニングベースのAIを導入したい」と提案した形になります。 ──初の事例ということは、AIのアルゴリズムも独自に作成されたんですか? 三宅氏: はい。ディープラーニング技術に関しては柴田さんと議論しながら、担当エンジニアのエドガー・ハンディ【※】が付きっ切りで、本作のために数学的な理論やオリジナルのアルゴリズムを組み立てていったんです。 通常のシンプルな構造のニューラルネットワーク構造のディープラーニング技術ですと、連携を始めとする『サガ』特有のバトルシステムに付いていけないんです。それを柴田さんに見ていただいて、AIに足りていないものを洗い出しながら試行錯誤を繰り返して改造していく流れでした。 ──AIからは具体的にどのような報告があがってくるのでしょう? 素人からするとまったく予想がつきません。 柴田氏: 敵のHPをどれくらい減らしたか、味方はどれくらい減ったか、生存者は何人か、という情報を出してもらっていました。それらの要素の状況によって、上手く戦えていたのかどうかを判断するんです。 ただ、ランダム性がありますので、基本的に1バトル10回戦ってもらい、その平均値を出してから判断するようにしていました。人間だと同じバトルを10回繰り返すとなるとなかなかしんどい作業ですが、AIはそんなことはまったくないので、お願いするほうも気が楽でした(笑)。 三宅氏: そこがAIのいいところですね。実際、バランス調整とデバッグ作業に関して、人の手を取らずに24時間稼働させられるのは非常に重要なポイントです。 ゲーム開発が大規模化することによって、バランス調整とデバッグ作業にかかる労力が増大し、それにより必要な作業の量がものすごいことになっているんです。そこにAIを導入することによって、本作ではバランスを確認する負荷をかなり下げられました。 ■我が子を見守るかのように「連携して!」 ──今作の開発では、開発メンバーとAIが二人三脚のように協力して取り組まれていたのですね。それにより、デバッグにかかる膨大な労力を下げることに成功した、と。 柴田氏: ただ……ゲームデザインの側からしますと、ディープラーニングにはもどかしいところがあるんです。 AIが「重要だ」と認識してくれないと学習してくれないんです。今作は「連携」がバトルにおける重要なシステムなんですが、最初はAIがまったく連携をしてくれなくて……。 こちらとしては「連携を出してほしい」とオーダーしたい気持ちなのですが、ディープラーニングの場合それができないんです。 ──なるほど。AIが自分自身で「連携が重要だ」と発見して覚えてくれるまでは待つしかないんですね。 三宅氏: そうなんです。「ディープラーニングによる強化学習」はひと言でいえば「経験から学ぶ」、ということです。人間でも鉄棒の逆上がりを習得するときに、何度もトライ&エラーして、うまく上がれたときにコツをつかんで行きますね。これが強化学習です。 ですから、我々はAIが連携してバトルに勝利した時に、報酬をあげるようにするんです。そうすると、AIは「どうして報酬をもらえたんだろう?」と考えて、「連携を選んだからもらえた」と学習していくことになります。 それが積み重なっていくとAIは「連携はいいことなんだ」と学習し、積極的に連携していくようになる。そのようなアルゴリズムを組んでいますので、どうしても時間がかかってしまうんですね。強化学習はシミュレーション回数がどうしても多くなる傾向にあります。 柴田氏: 学習していない初期のころは、単に攻撃力の高い技を選ぶだけで、まったく勝てなかったんです。そこから徐々に連携や術を使うことを覚えていったのは面白かったです。 どこから学んできたのかわからないのですが、術が有効な敵に対してちゃんと術を使う動きをみせることもあって、そういう時は「ああ、やっとAIが術を覚えたぞ!」って感激しました。 ──まるで我が子を見守るかのような感じですね(笑)。 柴田氏: そうですね。完全に人間と同じような動きにはならないんですが、最終的にはある程度は連携してくれるようになりました。 ■現状、「面白い、面白くない」はAIの評価対象外 ──ちなみに、河津さんはゲーム開発におけるAIの導入についてはどのようにお考えなのでしょうか。 河津氏: それこそ、「上手い具合にシナリオを面白くしてくれるAIがゲームの中に入ってくれれば楽なんだけどな~」とは思います。 ヒロインがピンチになったり、王様から頼まれごとをされたり、悪い奴に騙されたり、冒険の布石をAIが自動で生成して散りばめてくれて、プレイヤーが進めていくと自然と面白い体験が味わえる……みたいなのがあれば一番なのですが、現実はそう都合のいい使い方はできないんですよね。 現状、自分は「AIをゲームの中に導入すれば面白くしてくれる」という風には考えていないんです。 三宅氏: 以前、河津さんとお話した際にも「三宅くん、僕は『ゲームの中のAI』は信用していないんですよ」とおっしゃられていましたよね(笑)。 ──実際、本作で活用されたものはいい感じに物語を面白くしてくれるような「ゲームの中のAI」ではなく、バランス調整やデバッグ作業に用いる「ゲームの外のAI」ですよね。 河津氏: そうですね。というのも、現状の技術レベルだとそもそも「面白い、面白くない」はAIの評価対象外じゃないですか。たとえばバトルにおいて、かかったターン数による数値的な評価はできても、「そのバトルが面白かったかどうか」は算出されない。 「早く決着がつく=面白い」わけではないですし、人によって「ヒリヒリしたバトルで面白かった」「無双できて面白かった」と価値観はさまざまですから、評価ができないんですよね。 もちろん、いつかはその評価ができるようになるかもしれません。ただ、今の段階では難しいと思うんです。 そういう意味では、「AIがゲームを遊んでくれて感想を言ってくれるようになる」のが自分の望んでいるところですね。「面白かった」「まあまあよかった」など言ってくれるようになるといいなあとは思います。 三宅氏: 河津さんのおっしゃる通り、ゲームの面白さだったり、この小説が好きなど、AIには主観的な評価ができなくて、それを何かしらの数値に落とし込んだもので伝えるしかないんです。つまり結局のところ、コンテンツの評価には人間の手が入ってくる。 でも、人間とAIの関係ってそれでいいのかもしれないと思います。どんな風にやるかをAIが考えてくれて、人間はその場を提供し目的に対する評価を定める、といったコラボレーションが関係性としては望ましいのかな、と。 河津氏: ただ、AIが人間では思いつかないクリアの方法を見つけてくれることで、新しい面白さを見つけてくれる可能性はあるかもしれません。 人間では絶対にしないような、面白くなくて面倒くさいことでもAIは進めることができますよね。ですから、その先に想像もしなかった面白い体験が隠されている……かもしれません。そういうところにAIを使えると面白い気がしています。 まあ、もし面白さがあったとしても、それを人間が直接体験できるかは別の話ですけどね。分かっていてもできないことはありますから。それこそ「エベレストに登ると気持ちいいよ!」と言われても、普通の人は登れないですよね(笑)。 ──確かに(笑)。 河津氏: 逆に、現時点でもデバッグやバランス調整には使える可能性があると考えていました。自分たちが寝ている間にも、ゲームをガンガン遊んでくれてその結果を報告してくれるというのはすごく効率がいいですよね。 そういう話をプロジェクトのプログラマーに相談したところ、社内でゲームAI研究を専門にされている三宅さんを紹介してもらい、今作でバトル側でAIを使った取り組みをしてみることになったんです。 ■AIによって「より楽しいゲーム」を作れるようになるのは夢のあること ──現時点では、デバッグやバランス調整に活用する方向でゲーム開発に導入されているAIですが、河津さんのおっしゃるように「ゲームの中にAIが入って面白くしてくれる」という状況は夢がありますよね。 河津氏: 現時点では難しいですが、もし技術的に可能になるのであれば面白そうですね。たとえばゲーム内でAIとの関係が育まれてきたところで、AIが敵に誘拐されてしまい、プレイヤーが助けにいく……みたいなシチュエーションは熱そうな展開じゃないですか? しかも、いざ助けたと思ったら、自分のことを忘れてしまっていたり逆に変なことを覚えてしまっていて、「俺のAIじゃない!」ってもだえ苦しんでしまったりして(笑)。 一同: (笑)。 河津氏: 逆に、口うるさい奴から解放されて自由だと助けに行かない人もいそうですね。それこそ『サガ』だったら「せいせいした!」って選択肢が出てくるでしょう(笑)。 三宅氏: もし実現できるとしたら「仲間AI」というのはすごく熱いと思うんです。 ただ、現状の技術だとどうしても、プレイヤーの行動意図を組んでくれなかったり、物語の流れと振る舞いがちぐはぐだったり、完全には格好良くならないんですよね。あと少しですね。 河津氏: 一方で、まともな受け答えができない「ポンコツゆえの可愛さ」みたいな路線はアリだと思っています。 三宅氏: そのあたりまでAIでできるようになるとRPGの体験が変わってくると思うんです。 今は演出することでドラマを作っているのですが、それがAIで生成できるようになるなら面白いことになりそうです。「仲間AI」を絡めることでさまざまなドラマを作れるようになるかもしれない。 ──未来が楽しみですね……。さて、そろそろお時間も迫ってきましたので、最後に『サガ エメラルド ビヨンド』のお話から、今回のAIを使った取り組みや今後のことに関して読者さんに向けたひと言をいただければと思います。 三宅氏: 『サガ エメラルド ビヨンド』では、ゲームバランスのチェックにディープラーニング技術を開発に採り入れた最初のタイトルという形で関わらせていただきました。 開発のスタッフのみなさんに貢献できたと同時に、育てていただいたところがありますので、今後は逆に恩返しできるようにしたいですね。 また、今回の開発を通じて、ゲームの中でAIを育てていくことの重要性を強く実感させられました。これからはAIが自ら開発のサポートにいくような体制を作りたいです。 柴田氏: 『サガ エメラルド ビヨンド』のバトルはけっこう頭を使います。AIでも容易に解析できないぐらい、幅広い戦略が試せますので、色んなことを考えては実行し、勝利を目指して欲しいです。 とくに、これまでにないタイプのコマンドバトルを遊んでみたい人にはぜひ触っていただきたいです。コマンドバトルは行動が固定化されやすいのですが、今作はそういう作りになっていません。 僕らとしても、コマンドバトルはまだまだ進化できることを見せたい思いを込めて作りましたので、実際に遊んで確かめていただければと思います。 河津氏: 今回の『サガ エメラルド ビヨンド』は、前作の『サガ スカーレット グレイス』の経験も踏まえ、さらにもう一歩踏み出して遊びの幅を広げたり、バトルに関してもより手応えのあるものに進化させています。 ユーザーの皆さんにはぜひ楽しんでいただきたいです。それによって、次の『サガ』に繋がっていきますし、自分としてもどんどんチャレンジしていきたいと考えています。 また、今作はバトルの検証においてAIを活用していますが、AIが実際にゲームの中に入り込んでくるのはもう少し先の未来になると思います。ただ、AIによってさまざまな体験を実現でき、より楽しいゲームを作れるようになるのは夢のあることですので、その時が来てくれるのを心待ちにしています。 AIの進歩でゲームを作る人の仕事が無くなるようなことは無いと思いますし、プレイヤーにとってもいいことしかない、Win-Winな状態になりそうに思うんです。そういう時代のゲームを作ってくれる人の登場も待ち望んでいます。 ──今後の『サガ』シリーズ、河津さんたちのご活躍を期待しています。本日はありがとうございました!(了) じつは今回の取材直前に、「3人パーティ構成で遊ぶRPG」と「4人パーティ構成で遊ぶRPG」の2作品を遊んでいた。そのどちらにも回復役は編成されていた。 何度も全滅の危機に瀕し、回復役のリカバリーによりなんとか乗り越えられる激しいバトルを味わえたのだが、結果として相当な時間とターン数を要することになっていた。 そんなことを事前に経験していたこともあってか、今回、河津氏の回復にまつわるコメントはまさに目から鱗であり、「ユーザーを自分のゲームに縛り付けるだけ」のひと言も個人的には首がもげるほど納得のあるものだった。 今作『サガ エメラルド ビヨンド』においてショップをなくした経緯、感情を揺り動かす特徴的なテキストにある背景からは、新しいことにこだわり続ける河津氏のクリエイターとしての信念と“若々しさ”が見えた。 また、過去にやり込んだTRPGのエピソードを語る際、クリエイターではなく、完全にいちTRPGプレイヤーの顔となって、興奮気味に語っていたのも、その場にいた人間のひとりとしては面白くて仕方がなかった。 今作では、バトルにおけるデバッグを中心にAIを活用することになったとのことだが、いつの日か、河津氏が望む「ゲームの中にAIが入り予測不能なストーリー」が繰り広げられる『サガ』を心待ちにしたいところだ。
電ファミニコゲーマー:
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