『おむすび』は“現在と過去”をどう描いている? 演出家に聞く“震災を描く決意”
NHK連続テレビ小説『おむすび』が現在放送中。平成元年生まれの主人公・米田結(橋本環奈)が、どんなときでも自分らしさを大切にする“ギャル魂”を胸に、栄養士として人の心と未来を結んでいく“平成青春グラフィティ”。 【写真】『おむすび』の核となる“神戸編”の人々 第4週では、仲里依紗演じる姉・歩が帰省。ところが、自身に憧れるハギャレンメンバーを「ギャルとかもうやめなよ、超ダサいから」とキツい言葉で突き放す歩に、彼女たちの思いを知る結が猛反発。そんな2人の関係性を紐解くかたちで、第17話、第18話に結の幼少期パートが描かれた。 同週の演出を担った小野見知が、震災前の神戸編を描くにあたって意識した点は2つ。まず1つは、ずっと続いていた日常の中で突然、あの日に地震が来る、ということ。そしてもう1つは、今の結とあの頃の結が通じていることだという。 「たくさんの方を取材する中で、『それまでの日常をいかに大切に描くか』が私の中で1つのテーマとなり、小さな頃の結や米田家の日常をしっかりと描きたいと思うようになりました。そして、結は当時から“みんなに仲良くしてほしい”というバランサー的な気遣いができる子で、“楽しくてかわいいものが好き”という、今の彼女があまり表に出そうとしていない部分も根っこでは通じている。その2つを大事に描けば、この先につながっていくだろうと思いました」 根底にあるものは変わらないのに、現在の結にどことなく感じる陰。それは北村有起哉演じる父・聖人もまた同じで、そんな聖人の“現在と過去”の違いが、震災が彼に与えた影響の大きさを物語っている。 「(過去パートでは)聖人と愛子(麻生久美子)が神戸に出てきて、家族を作って、一から商売を始めて……。すべて自分たちで築いてきた暮らしの中で、のびのびと過ごしている姿を北村さんと麻生さんが自然に表現してくれました。衣装合わせの段階から『無理に若々しくするということではなく、いかにそれが日常だったのかをナチュラルに見せたいですね』とご相談していましたが、実際に収録当日、北村さんのお芝居を見たときに『こういうことだったんだな』と。聖人は家族を大事に思っているし、地域を大事に思っているし、そこで暮らしていくことに何の迷いも感じていなかった。北村さんや麻生さんのお芝居によって、そんな日常に説得力が生まれたと思っています」 神戸編で描かれた米田家の日常。実は、そこで暮らす聖人には、表情や雰囲気以外にも現在との明確な違いがあるという。 「クリスマスが近づいている時期に、結が『お母さん、またセーラームーン描いて』とおねだりするシーンで、聖人は皿洗いをしています。台本に書かれていたわけではないのですが、『福岡時代と神戸時代における日常のちょっとした違いってなんだろう』と考えたときに、きっとこの頃の聖人はそういった家事もやっていた人なのではないかと思ったんです」 物語において、米田家の家事を担当するのは基本的に佳代と愛子。小野は、その理由について「あえて時代性を意識した点が大きいですが、特に永吉(松平健)は、昔から家のことを佳代に任せて自由に生きてきたひとで、まったく家事をしないキャラクター。聖人は米田家の農業をメインで担っている。そうなると、佳代と愛子が中心となって家事を行う米田家のかたちが、糸島で暮らす年月の中で、きっと自然と定着していったのだろうと考えて、今回はあえてそういった表現にしています」と説明する。 「糸島編をある程度撮影した後に神戸編を撮ったので、聖人が皿を洗う姿に、麻生さんは『(この頃は)お皿を洗う人なんだね』と、最初は少し意外そうにおっしゃっていました。(時系列通りに撮影する)順撮りではないのでキャストの方は大変だったと思いますが、みなさん本当に巧みな方なので、ご自身の中でもう一度、役を組み立ててくださって。糸島での現在軸を丁寧に描いた後に、過去の神戸編へ戻る、という手順だったからこそ、新たに生まれたものもあったように思います」 第4週で、少しずつ明らかになってきた米田家の過去。そして第5週では、ついにあの日が訪れる。歩がなぜギャルになったのか、そして、結がなぜ栄養士を目指すことになるのか。これまでじっくり温められてきた物語が、大きく動き出す1週になりそうだ。
nakamura omame