「事故車の修理は、ほぼ利益がない」板金塗装会社が悲鳴 物価高騰しても…「巨大損保が単価を“押しつける”構造」と指摘も
損保会社から支払われる事故車の修理の工賃に、近年の物価高などが反映されていない―と、全国の板金塗装会社が訴えている。工賃は損保各社との交渉で決まる単価(指数対応単価)から算定されるが、力関係は板金塗装会社側が圧倒的に弱い。「損保が単価を押しつける構造」との声は長野県内でも上がっており、全国の板金塗装会社でつくる日本自動車車体整備協同組合連合会は、従来通りの個別交渉では太刀打ちできないとして損保各社に団体交渉を求める方針だ。 【解説図】自動車の保険修理工賃の算出方法 「事故車の修理はほぼ利益がない」。長野市の板金塗装会社の経営者はため息交じりに話す。トヨタ自動車のハイブリッド車「プリウス」のフロントバンパーを交換した場合、中小の板金塗装会社が受け取る工賃は約1万2千円という。経営者が考える適正工賃は「1万8千円台」。昨春に塗料価格が急騰したほか、近年の自動車の高性能化に対応した工具の購入費、作業の複雑さ、求められる技能は年々どんどん上がっている。しかし「受け取る工賃は数十年前からあまり変わらない」と言う。 工賃は、作業時間に単価を掛け合わせた額=図=で決まることが一般的。損保各社は作業時間に関し、損保各社が出資する「自研センター」(千葉県市川市)が策定する指数(標準作業時間)を採用している。 一方の単価は個別交渉で決まるが、県内のある経営者は「損保の担当者はかたくなに値上げに応じない。しつこく値上げを要求し、修理の仕事が回ってこなくなると怖い」とこぼす。別の経営者は「単価は損保が決めるものと思っている」と話した。 損保大手の東京海上日動火災保険(東京)は取材に、単価は「強制しているものではない」と強調した上で、「一方的な押しつけにならないように留意している」とした。「物価高騰などの影響を踏まえ、今春に単価を引き上げる方針」とも答えた。ただ、交渉については従来通り個別に行うとの見解を示した。 単価は自動車ディーラーの内製工場など規模が大きい会社ほど高く、零細企業は安い傾向がある。県自動車車体整備協同組合の藤原富起人理事長(72)=松本市=は「板金塗装業がもうからない構図は後継者のなり手不足を生んでいる」と危機感を募らせている。