オーダースーツ界隈が熱い 作業着→勝負服へ ふるさと納税返礼品も
「オーダースーツ界隈(かいわい)」が熱い。ふるさと納税の返礼品として採用する自治体が増えたり、一般のビジネスマンが「勝負服」に選ぶケースがでたりするなど、新たな顧客層を取り込む動きが活発化している。 【写真まとめ】オーダースーツに集まる注目、返礼品も ◇中央区のスーツ返礼品の状況は? 東京都中央区が7月、ふるさと納税の返礼品に高級オーダースーツを加え、話題になった。最も高額な返礼品は1100万円相当のオーダースーツ仕立券(寄付3700万円)で、その他にも複数の高価なスーツを返礼品に用意している。中央区に利用状況を尋ねると、10月23日時点で返礼品で45万円相当のオーダースーツ仕立券がもらえる寄付150万円が2件確認されているという。 スーツ作りを請け負うのは同区銀座にある創業90年の老舗「銀座テーラー」。最も高額な1100万円のスーツには、高級素材として珍重されるビキューナや絹などを使った布を採用。その1着のため、布を織る工程から始め、熟練の職人1人がすべてを縫い上げる「丸縫い」という手法で仕上げる。広報担当の松丸修さんは「本当の意味で世界で1着しか存在しない特別なスーツ」とPRする。納品までに約半年を要するという。 中央区のように、ふるさと納税の返礼品としてオーダースーツを採用するケースは増えている。ふるさと納税サイト「さとふる」を運営するさとふる(東京都中央区)によると、スーツを返礼品とする自治体は現在約30で、今年1~9月は前年同期比で3・3倍超に拡大した。 ふるさと納税による税収を増やそうと、全国の自治体は返礼品の登録数を増やしたり、品目の開発を急いだりするなど競争は激化している。さとふるの広報担当、井田尚江さんは「返礼品の主流は食品で、それ以外の分野では開拓の余地がある。オーダースーツを地域の特産品としてPRすることや、話題作りにつなげたいという思惑もありそうだ」と分析する。 ◇外国人客やチェーン店も 銀座テーラーではふるさと納税の返礼品以外の変化もある。日本に駐在する外国人ら外国人客の増加だ。数年前から販売促進活動を始め、リピーターや口コミで広がり顧客をつかんできた。現在の外国人客比率は新型コロナウイルス禍前(2019年)から倍増し、20%になった。高い技術力を武器に、欧米などでの市場展開も検討する。 新型コロナ禍で広がった在宅勤務などの影響でスーツ離れは加速したが、足元では持ち直しの動きも見られる。帝国データバンクの調査によると、上場するスーツ関連企業7社の23年度業績は前年度比約4%増だった。その背景について「冠婚葬祭向け礼服需要の回復や、オーダースーツ人気の高まり」(帝国データバンク)と分析する。 既製服のイメージが強い紳士服チェーンにも変化が生じている。業界最大手の「青山商事」は19年からオーダースーツの取り扱いを始め、23年10月には運営する「洋服の青山」全店での展開に踏み切った。特徴は既製品程度の価格の安さだ。2着同時に注文すれば1着当たり2万円台半ばとなる。チェーン店の強みである大量仕入れにより、生地の価格を抑えたことなどで実現したという。 売り上げは堅調に伸び、スーツ全体の売り上げに占めるオーダースーツ比率は24年3月期に16・0%まで上昇した。同社広報の高橋直哉さんは「単なる作業着だったスーツが、新型コロナ禍を経て対面で仕事をする場面を特別にする『勝負服』として見直されるようになるなど消費者の意識が変化した」と分析する。 好みに応じた素材などにこだわると、既製品程度の価格とはいかなくなる人が多いと言うが、それでも「体にフィットして自分好みに仕上がったスーツは満足度が高く、着用すると自信につながるようだ」(高橋さん)と話す。今後はレディースオーダーにも力を入れるという。【嶋田夕子】