国外逃避が止まらない…!「電気代が異常に高い」ドイツがいま陥っている「産業の空洞化」と「雇用の喪失」
ドイツの「家庭用電気代」はEUで最も高額
要望? それとも要請? それが誰からであったかは書かれていなかったが、容易に想像はつく。昨年、電気の高騰と逼迫の最中に脱原発を完遂し、それを大々的に祝った人たちではないか。ドイツの脱原発ロビイは、緑の党、および社民党の政治家と、環境NGOが固く結束しており、強靭な力を誇っている。その彼らが、現在、一番恐れているのが原発の再稼働だ。 ドイツの電気代は他国に比べて異常に高い。どれだけ高いかというと、産業用の電気代は、1kW時あたり20.3セントで、11.3セントのフランスと比べるとほぼ2倍だ(vbwの資料)。ちなみにポーランドが15.8セントで、中国と米国は8.4セント。 EUでドイツより電気代が高いのはイタリアとスペインのみで、どちらも原発を持たない。ただ、イタリアもスペインも、今年の経済成長はそれぞれ0.8%、2.6%とプラス。ドイツは0.1%で、いつマイナスになっても不思議ではない。 また、家庭用電気もドイツは40.2セントと、EUで最高値(23年後半の年間使用量が2500~5000 kWhの家庭の場合)。同年前半は、オランダ、ベルギー、ルーマニアが少し上回っていたが、後半、ドイツがそれらを追い抜いた。一方、フランスは25.91セントで、オーストリアが27.48セント。こんな状態で、ドイツ経済は果たしていつまで持ち堪えられるのか。 しかも、23年4月15日に全ての原発が止まって以来、ドイツはまさにその翌日から電気が恒常的に不足し、フランスの原発電気や、チェコやポーランドの石炭電気を、一日も欠かさず破格の値段で輸入している。ただ、高い電気で高い製品を作っても国際競争には勝てず、すでに余力のある企業から、国外逃避が始まっている。産業の空洞化、それに伴う雇用の喪失はすでに隠せない。 こうなると、原発アレルギーのドイツ人の間にも、流石に危機感が募る。すでに22年の後半には、暫定的であれば原発は再稼働しても良いのではないかという声が上がり始めていた。動かせる原発を動かして、危機を乗り越えようというのはごく自然な考え方だが、緑の党はそうは考えなかった。 その結果、ハーベック経済・気候保護相(緑の党)は脱原発の修正を拒否。ショルツ首相がそれを鑑み、よりによってロシアからのガスが途絶えていた23年4月15日、最後の3基の原発を止め、3ヶ月半遅れの脱原発を完遂した。50年来の夢が叶った連立与党の緑の党は狂喜し、電気の高騰と逼迫に苦しんでいた国民は捨て置かれた。世界の多くの国々は、ドイツのこの行動を驚異の目で眺めていた。