日銀マイナス金利政策解除の歴史的瞬間が近づく
春闘での高い賃上げが日銀のマイナス金利政策解除を後押し
主要企業の間で高い賃上げでの妥結が相次いでいることを踏まえると、今年の春闘の賃上げを特に重視してきた日本銀行が、次回3月18、19日の金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除に踏み切る可能性は、7割あるいはそれ以上にまで高まってきたのではないか。 筆者は、2013年4月に「量的・質的金融緩和」が導入された後、金融政策を決める政策委員会の審議委員として異例の金融緩和に一貫して慎重な姿勢で臨み、その修正を主張してきた。2016年1月のマイナス金利政策の導入決定の際にも、それは国債買い入れ策と矛盾し国債市場を混乱させる可能性があること、銀行の収益を悪化させ金融システムを不安定にさせるリスクがあることから、マイナス金利政策の導入に反対した。 こうした経緯を踏まえると、10年以上の年月を経てようやくマイナス金利政策が解除されることは、非常に感慨深いものがある。ただし、日本銀行はもっと早くに政策修正に着手すべきだったと考えている。
物価、賃金の上振れは輸入物価上昇を起点とする一時的な現象か
物価、賃金が大きく上振れたことが、日本銀行に2%の物価目標達成の宣言とマイナス金利政策解除を可能にさせようとしている。しかし、賃金、物価の上振れは、10年以上にわたる日本銀行の異例の金融緩和の効果によるものではなく、輸入物価上昇を起点とする一時的な現象という側面が強い、と筆者は考える。安易に「賃金と物価の好循環実現」と理解べきではないだろう。 本来、輸入物価の上昇は、国民所得を減少させ、日本経済には逆風だ。そうした「災い」がきっかけとなって、物価上昇が賃金上昇に転化させることで持続的な物価と賃金の上昇が生じ、実体経済を改善させるといった「禍を転じて福と為す」の展開の可能性を期待するのは、楽観的過ぎるのではないか。
異例の金融緩和が経済に与えた影響は明らかでない
2016年1月に導入が決定されたマイナス金利政策及びその他の異例の金融緩和策が、経済や物価に与えた好影響については、明確には確認できない。長期化した経済の低迷、低金利のもと、日本経済は金利感応度を失ってしまったのではないか。 金融緩和策によっていくら金利が低下しても、先行きの成長期待や生活改善の期待が高まらなければ、企業や個人は、借り入れを増やして設備投資や消費を拡大しないだろう。 しかし、異例の金融緩和は、金融市場には影響を与えた。2008年のリーマンショック(グローバル金融危機)後の行き過ぎた円高、株安を修正する役割を担ったのである。