キューバ国民2/3が観ている人気のコメディー番組 どこがウケてる?
ハバナ市内にある放送局のスタジオを訪れた。眩いばかりに照らされたセットのなか、「カチンッ!」とカチンコの音が室内に響き渡ると、役者たちが大げさな身振り手振りで演技を始めた。 コメディー番組「ビビール・デル・クエント」の収録だ。社会主義下の日常の暮らしを題材に風刺をきかせて笑い飛ばすこの番組は大人気で、キューバ国民の3分の2が見ていると言われるほど。配給のパンの質の悪さや、ボロボロで天井が崩れる家、怠慢な政府役人など、さりげない政府批判も散りばめられる。国民が身をもって共感できるネタが人気の理由だ。
主演である年金生活者の白髪老人、パンフィロを演じるコメディアンのルイスはまだ37歳。僕はスタジオに現れたメイク前の彼がパンフィロだとは、全く気づかなかった。元々はハバナ大学で数学とコンピュータサイエンスを教える傍らコメディをやっていたが、2008年に、テレビとの契約が決まってコメディの方が本業になった。パンフィロは彼が学生の頃に考えついたキャラクターで、「パン」はキューバの美味くないパンのことだという。 昨年、キューバとの国交を回復させたオバマ大統領がハバナを訪れた際、番組にゲスト出演した。コメディの中で、オバマが出ていった後、米大統領が自分の家を訪れたことをまだ信じられず震えの止まらないパンフィロが、最後にいうセリフがこうだった。 「あ、オバマ大統領に食料配給カードを見せてあげるのを忘れてしまった!」 (文・写真:高橋邦典 2017年2月撮影) ※この記事はフォトジャーナル<変貌する社会主義国キューバ>- 高橋邦典 第52回」の一部を抜粋したものです。