尾上右近ロングインタビュー! テーマは“親の愛”。8回目の自主公演に込めた思い
ご当地もの『摂州合邦辻』と尾上眞秀と挑む『連獅子』
――さて、今年は『摂州合邦辻』と『連獅子』を選ばれました。この演目にした理由を教えてください。 まず今年は大阪でも公演をしますので、大阪が舞台の『摂州合邦辻』は“ご当地もの”になっていいなというのがひとつ。あと単純に、好きなんです。ドロドロしている物語なんだけど、最後は「ああ、これで良かったんだ」と晴れやかな気持ちになるので。 ――河内国の大名・高安左衛門に後添えとして嫁いだ玉手御前が義理の息子である俊徳丸に道ならぬ恋心を抱き、これから逃れるために俊徳丸は許嫁の浅香姫と共に逃げて……という物語。 「説経節」が元になっていて、宗教色が強い話。玉手御前という人は、自分もドロドロしているし、まわりの環境もドロドロ、あらゆるドロドロにまみれているんだけど、最後に大切な義理の息子の命を救って自分が命を落とす。仏教は蓮の花を大事にしていますが、玉手御前は究極の自己犠牲の人であり、本当に蓮の花みたいな女性だなと思うんです。また展開も早いし、大阪特有のエキサイトする空気感もあり、ヒートアップするリズム感もいい。観に来てくれたお客さまが“ずーん”とならず、前向きな気持ちで帰っていただける作品だと思うので、選びました。あとは歌舞伎界を見渡して、僕の世代で『摂州合邦辻』をやろうと思う人がいなさそうなので、じゃあやっちゃおうかなと(笑)。 ――『連獅子』は力強い舞踊劇。言わずと知れた名作です。 親獅子が子どもを崖から落とし、そこから這い上がってくる子どもだけを育てるという獅子の教えを舞踊にしたものなのですが、僕はこれまで仔獅子を、4人の親獅子相手に勤めさせていただきました。この作品は実際の親子で演じられることが多く、そのことでよりお客さんが感情移入する仕組みになってるとは思いますが、僕は歌舞伎俳優の息子ではないからこそ、色々な先輩たちの親獅子で仔獅子をやらせてもらえた。歌舞伎には色々な捉え方があると肌で感じた作品であり、僕の中でも思い入れの強い演目です。いつか親をやる日が来るだろうと思っていたし「そろそろやりたいな」と思っていたところで、今回、尾上眞秀くんが出てくれることになったので実現しました。僕が『連獅子』で親獅子をやるなら眞秀くんとやりたいとずっと思っていたんですよ。 ――眞秀さんは寺島しのぶさんの息子さんで、音羽屋の宗家である菊五郎さんのお孫さん。昨年尾上眞秀を名乗って初舞台を踏まれました。 以前しのぶさんが「眞秀、『連獅子』だけは観ないのよ」とおっしゃっていて。『連獅子』は親子の物語であり、お父さんと子どもたちが踊る(ことが多い)演目。自分はお父さんと『連獅子』を踊ることはないから観たくない……と眞秀が言ったそうなんです。僕はその気持ちが、めちゃくちゃよくわかる。だけど、それを叶えてくれた先輩たちが僕にはいました。今度はその恩を僕が下の世代に返していこうと思い「一緒にやろうぜ」と言いました。 ――それはかなり胸アツなエピソードです……。 実際の親子ではない俳優で『連獅子』を踊るというのは僕も経験していますが、どちらも父親が歌舞伎俳優ではないという役者同士でやる『連獅子』って初めてじゃないかな。かなりチャレンジングだと思います。なぜ今年なのかと言うと、眞秀が大きくなっちゃうからです(笑)。とんでもない速度で成長していて、たぶん来年には僕の身長を追い越すんじゃないかな? そんな危機感があるので、やるなら今年しかない! と。毛を振ったりと体力的にはかなり大変な演目ですが、踊りが好きだという気持ちを再認識できる作品です。眞秀も歌舞伎が好きで、踊りも好きだと思うんだけど……「やっぱり好きだー!」と思うターニングポイントみたいなものは、まだ来ていない気がするんですよ。それをこの『連獅子』で味わってもらいたいという、僕のちょっとしたおせっかいです(笑)。