犬山紙子が『インサイド・ヘッド2』にもらったポジティブな力「全部含めて"私らしさ"だと肯定してもらえた気がした」
少女の脳内で渦巻く「いろんな感情たち」の世界を、まるで実況中継するかのようにユーモラスかつイマジネーション豊かに現出させ、2016年のアカデミー賞長編アニメーション賞を受賞したディズニー&ピクサーによる『インサイド・ヘッド』(15)。世界中で大ヒットした前作から9年、ついに完成した待望の『インサイド・ヘッド2』(8月1日公開)は、世界各国で驚異的な興行成績を記録。あの『アナと雪の女王2』(19)を超え、なんとアニメーション映画史上世界No.1の歴史的快挙も達成した。 いよいよ日本公開を目前に迎え、期待が高まる本作では、主人公の少女ライリーはすっかり転校先の学校に慣れ、親友と共に充実した日々を過ごしている。けれど、高校入学を迎える時期に差し掛かり、自分でも戸惑うような“新しい感情”に振り回されるように。大人の階段を登り始めたライリーの脳内には、これまでの5つの感情、ヨロコビ、カナシミ、ビビリ、ムカムカ、イカリに加えて、新たにシンパイ、イイナー、ダリィ、ハズカシという4つの感情がやって来る。 【写真を見る】犬山紙子も思わず爆笑!?日本のゲームキャラクターを彷彿させるランス MOVIE WALKER PRESSでは、映画監督や作家など、多種多様案分野で活躍する人々に、あらゆる視点から本作をひも解くレビュー連載を実施。『インサイド・ヘッド』をこよなく愛する人気コラムニストの犬山紙子は最新作を鑑賞し、「まさにいまの自分が求めていた、本当にすばらしい作品でした!」と興奮気味に語る。なにがそんなに響いたのか、犬山の言葉をもとにひも解いてみよう。 ■「娘のことを思い浮かべましたが、そのうち完全に自分事として捉えていました」 まず“いまの自分が求めていた”に関しては、「私の娘はいま7歳ですが、これから思春期が来るのが楽しみだし、怖いんですよ(笑)。周りの先輩ママたちから“本当に大変よ”とよく聞いていて。それを本作で前もって体験させてもらいました!例えば、ライリーの脳内指令室のコントロールパネルを急に変える工事が(新たな4つの感情が来たことで)始まるシーンを観ながら、私もきっと娘の様子を見て“どうした?なにが始まった?”なんて戸惑うのかな」と想像を巡らせたそう。シンパイが昔からいた感情のヨロコビたちを追い出そうとする姿には、「それくらい思春期って混乱するんですよね」と納得の表情を浮かべ、「もちろん“ダリィ”という気持ちもわかるし、SNSツールが発達した現代では“イイナー”の割合がより大きくなっている気もします。“かわいくていいな”“いい大学に行っていていいな”なんて」と身構える。 とはいえ「最初は娘のことを思い浮かべて観ていましたが、そのうち“私もこうだったな”と完全に自分事として捉えていました。新たにやって来た、シンパイ、イイナー、ダリィ、ハズカシというキャラクターそれぞれに対しても、“本当に恥ずかしいよね、本当にダルいよね”などと共感して。私自身も心配性なので、心配や不安が頭に渦巻いてライリーが眠れなくなる描写に“本当にそのとおり!”と思いました」と自分に重ねてハマったようだ。「すべて身に覚えがあるだけでなく、“あれ、いまも大して変わってないかも!?”と思ったりして(笑)。いまだにシンパイやハズカシやイイナーが私の脳内でバリバリ働いているな、なんて思いながら観ていました」と苦笑する。 ライリーが自分でも思わぬ行動に出てしまう姿にも、青春“あるある”を感じたそう。「友だちにどう愛されるかとか、どうしても学校内カーストが気になっちゃう年代ですよね。それまでは無邪気にみんなと遊んでいたのに、“イケてるグループに入りたい”とか“自分もイケてると思われたい”という気持ちが芽生え始めて。ライリーがやってしまう、本当は好きなアーティストを、友だちに合わせてつい否定しちゃうのも“超あるある!”でした」と認める。「それまで大事にしてきた友情と、イケてるグループの狭間で損得勘定が働いてしまうのもこれくらいの年代。承認欲求がムクムク湧いてくる時期を振り返って“黒歴史”とか言っちゃうけれど、それもあっての自分なんですよね」としみじみ語る。 そうした“自己認識と自己肯定”を促す本作のメッセージ性が、かなり心に染みたようだ。「『インサイド・ヘッド』でヨロコビがカナシミを排除するような行動をとってしまい、そのせいでうまくいかないシーンがありました。それが、メンタルケアに興味を持ち始めて知った、自分のいまの経験や感情をそのまま受け止める=マインドフルネスの大切さを記す的確な表現だと思ったんです。自分がずっとネガティブな感情にフタをしていたと気づかされて。さらに今回は苦い経験や失敗体験が出てきますが、それらを全部含めて“私らしさ”だと、すごく肯定してもらえた気がしました。“失敗してもいいんだよ”“あなたのネガティブな気持ちもあなたそのものだから”と子どもにも伝えられるような、“どんな気持ちや感情も大事だ”というメッセージが、より強化されたように感じて本当に感動しました」。 ■「自己の葛藤を通して描いたことが、多様な女の子にとっても大きなパワーになるなと感じました」 また本作のポイントとして、物語の描き方やその姿勢にも言及する。「このくらいの年ごろの少女を描く場合、多くは“異性との恋愛”へ持っていきがちですが、本作はそうせずに少女の成長を“気持ち”に特化して描いていく。それがすごく好きでした。ライリーがレジリエンス=回復力を獲得する様も、恋愛を通してではなく、自己の葛藤・友情を通して描いたことが、多様な女の子にとっても大きなパワーになるなと感じました」と称賛。加えて「実はライリーの両親の脳内感情をもっと全面に出した、親子の物語になると想像していたんです。ところが親の脳内は終盤に少し出ただけで、ほぼライリーの感情だけで物語が進んでいく。確かに“親の気持ちもわかって”と押しつけがましくなったかもしれないので、ライリーの感情にフォーカスした作り方が本当にすばらしいと思いました」と感嘆する。 そうして本作から得た感動や感銘が、“近い将来、大人の感情と対峙することになる娘”と向き合う際の大切なヒントも与えてくれたようだ。「娘を育てるうえで私が一番心配なのは、なにか困難にぶち当たった時に立ち上がれなくなること。絶対に外で傷つくことがあるし、どこかで必ず失敗もしますよね。本作では最初にヨロコビが『この失敗した思い出はいらない』と“ライリー保護システム”を使って思い出ボールを遠くに投げてしまう。でも失敗して恥ずかしい気持ちの積み重ねこそが本当は大切だし、それを否定しないことが大事なんですよね。それもすべて自分だと認めることで、回復力や立ち上がれる力がつくと思いました。どう自分で回復できるようになるか、あるいは誰かに助けを求められるようになるか、という土台作りが確信できた、本当に私にとってスゴイ作品でした!」。 ■「『ファイナル・ファンタジー』っぽいキャラクターが出てきたシーンは、メチャクチャ笑いました(笑)」 観る者の背中を押しながらも本作が決して押しつけがましくならないのは、隅々に至るまで遊び心が貫かれているからでもあるだろう。犬山も「ライリーの親友とのリアルな友情だけでなく、幼少期に見たアニメやゲームのキャラクターが自分の味方になってくれるという描写が、すごくよかったです!」と別角度からのお楽しみを付け加える。「私自身いろんな物語やキャラクターにいまも支えてもらっています」と明かす。例えば「アニメ『怪獣8号』のミナという女性キャラクター。幼少期に防衛隊員になろうと想像するところから、実際に隊員になってカッコよく防衛する姿が重なるシーンはもうボロ泣きです。心が熱くなります」とうれしそうに力説する。 それらのシーンでは懐かしいタッチの2Dアニメーションが突然入り込んでくるが、「特にスマブラ(任天堂「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズ)の『ファイナル・ファンタジー』っぽいキャラクター、ランスが出てきたシーンは、メチャクチャ笑いました(笑)。プレステ初期のポリゴンのカクカクした感じを表現しているこだわりもスゴくて、本当にワクワクしました。こだわり抜いたキャラクターデザインも、さすがだと思いましたね」と感嘆する。もちろん基本中の基本、「ライリーのビジュアルも、思春期感が漂うニキビもすごくよかったし、歯の矯正もまさにって感じ。ホッケーのプレイで強気にいく感じも、親友2人がアジア系と黒人系という多様性にも好感が持てました」と語る。 最後に、犬山自身の大切な“思い出ボール”を挙げてもらった。「たくさんありますが、私が20歳のころのある朝の思い出かな。難病が発覚したばかりの母がまだ歩けて、当時飼っていたコロッケという柴犬を抱っこして、2階の私の寝室まで上がってきてくれたんです。『朝だよ、起きて。ほらコロッケもいるわよ』とカーテンを開けながら声を掛けてくれて。朝の光がシャッと入って来る感じをよく覚えているんですよね。それが、つらい気持ちやくじけそうな時に私の土台になっている大切な思い出です」。そうした何気ない日の記憶や思い出すべてが、自分を形づくっていく。そんなふうに『インサイド・ヘッド2』が観客の心を明るく照らし、きっと強くしてくれるだろう。 取材・文/折田千鶴子