「アレ」を使った知られざる理由と名将の決め事 前田穂南も愛読する岡田彰布監督著書より
「アレ」を使う原因となった出来事
そんな中で、オレなりに決め事をつくった。まず優勝と言葉にせず「アレ」と言うことに決めた。これは2010年のオリックス監督時代がスタートとなっているけど、実はそれ以前に「アレ」を使う原因があった。あまり知られていないかもしれないわ。 2008年のことよ。ご存じのようにこのシーズン、スタートから飛び出し、シーズン半ばで独走状態に入った。オレだって優勝すると信じて疑わなかった。その半面、勝負事は何が起きるか分からない。自制するように、自分なりに優勝の2文字を封印したのだ。 ところがあるコーチがトラ番に囲まれ、「優勝間違いなし」的なコメントを発している記事を見た。そんな簡単に言っていいのか。さすがにそのコーチに「軽々しく優勝なんて言うな」と伝えたわ。そんなことがあってのそのシーズンの終盤。例の巨人の猛追を受け、最後、逆転を許してしまった。2005年には優勝しているけど、改めて簡単なものではない……と肝に銘じながら、オレは責任を取って監督を退いた。 「アレ」の語源はそこからなんだけど、2023年シーズンは「アレ」がファンの間にも浸透。オレ自身、ますます言えなくなっていただけに、リーグ優勝した日、ようやく「優勝」と言葉にできたのが、ホンマ、気持ちよかった。
「グータッチ」でなく「パータッチ」
ほかに、もうひとつ。「グーかパーか問題」やね。いまの野球、得点したり抑えたりすると、みんなで「グータッチ」するのが習わしのようになっている。有名なのが原辰徳前巨人監督のグータッチなのだが、オレはどうも違うと気になっていた。 ジャンケンではグーより強いのがパーやないか。それなら阪神はグータッチをやめて、パータッチにする。なんでも強いほうがいいに決まってるやろ……という発想で、パータッチするよう選手に伝えた。選手も笑いながら受け入れたようで、オレのこだわりが「パー」になって出ているということなんよね。 写真=寺田辰朗
週刊ベースボール