『虎に翼』の“結婚の判決”は未来へと続いていく 寅子のモデル・三淵嘉子と異なる夫婦の形
令和の現代と地続き、なんなら、現代そのものと評判の朝ドラことNHK連続テレビ小説『虎に翼』の第21週「貞女は二夫に見えず?」では、まさにいま注目されている夫婦別姓問題が取り上げられた。 【写真】明律大学の仲間が大集結の感涙ショット 寅子(伊藤沙莉)と航一(岡田将生)の交際が、いよいよ結婚に進展する流れに。寅子はこのまま永遠を誓わない交際で構わなかったのだが、実は航一は寅子を妻と堂々と公表したいと考えていた。航一はできるだけ寅子の希望を受け入れようとしてきたのだという健気さがそっと明かされる。 〈やりたいこと 好きなように自由にできる夢〉とは『あさが来た』(2015年度後期)の主題歌「365日の紙飛行機」の歌詞だが、寅子の生き方はまさにそれ。でも、さすがにだいぶ経験を積んで大人になったようで、航一の気持ちも汲んで結婚を受け入れようかと譲歩を考える。だが、そうなると今度はどちらの姓を名乗るのが最適かという問題が浮上してきた。 寅子は「佐田寅子」として判事としてのキャリアと信用を積んできたため、「星寅子」と名乗ると不利益や不都合がある。だが、結婚しても佐田のままで判事をやると信用問題に関わると桂場(松山ケンイチ)は忠告する。ドラマのなかではあまり深く言及されなかったが、優三(仲野太賀)への思いもあるだろう。優未(毎田暖乃)への気遣いも。もっとも優未はあまり気にしてないようなのだが、それも彼女特有の気遣いかもしれない。 迷う寅子に、航一が佐田と名乗っていいとまで言い出す(どれだけ寅子ファーストなのか。まったく理想的なパートナーである)が、星家を大事にする継母・百合(余貴美子)が猛反対。結婚したときの主として女性が苗字を変えることが当然のようになっていることの是非を、視聴者がそれぞれ考えるドラマになっていた。 寅子のモデルの三淵嘉子の場合、ドラマにおける星長官(平田満)のモデルと思われる・三淵忠彦の息子(ドラマでは航一)と結婚し、三淵姓を名乗ることで、一層のキャリアアップ、法曹界での立ち位置を盤石にした印象――NHK大河ドラマ『光る君へ』における道長が家柄のいい女性と結婚し地位をあげたような、まさに戦国時代、果ては戦前までずるずると続く家制度のようなものを感じるのだ。ドラマではその逆を描いた。寅子と航一は事実婚を選び、お互い別の苗字を名乗ることになった。なぜか。そうすることで、ふたつの真逆の視点ができるからではないだろうか。 順調にいまでいう上級パワーカップルのような2度目の結婚生活を送ったイメージの三淵嘉子の生き方をなぞると、一般的には共感もしづらいし、夫婦別姓問題に「はて?」をつきつけられず、ドラマの現代性や庶民性が失われてしまう。三淵嘉子そのものではない寅子には、夫婦別姓の可能性を考えさせることで、結果的に、夫の姓を名乗る生き方、名乗らない生き方のふたつを考えることができるという寸法ではないか。 ただそれは、ドラマを観て三淵嘉子の生涯にも興味をもった視聴者だけが味わえる楽しみ方であり、なんとなく観ている視聴者にとっては夫婦別姓だけが印象に残るであろう。事実婚の選択と、夫婦別姓の問題とはまた別のような気もするが、この時代、夫婦別姓を選ぶために、事実婚という選択をしたということか。なんだかややこしい。制度を変えることはとかく煩雑さを伴うものである。 このややこしさを解決するのは、香淑(ハ・ヨンス)の魔法のワードである。 「最後にはいいほうに流れます」 かつて、法律家を目指して共に学んだ香淑が国に帰ることになって、そのお別れのときに仲間たちで海に行ったときの言葉である。