【インドネシア】日本車の牙城、挑む中国EV BYDはMPV投入、展示会開幕
インドネシア最大の自動車展示・販売会「ガイキンド・インドネシア国際オートショー(GIIAS)2024」が、きょう18日開幕する。二輪・四輪ブランドが50以上出展する。日系ブランドが9割以上を占める市場に、日系とほぼ同数が出展する中国メーカーが挑む形となる。中国の電気自動車(EV)最大手の比亜迪(BYD)は、多目的車(MPV)「M6」を展開する。販売価格は3億7,900万ルピア(約370万円)からで、需要が大きい3列シートのセグメントへの戦略的投入となる。市場首位のトヨタ自動車は、ハイブリッド車(HV)「プリウス」の発売に加え、主力車種でバイオ燃料車を展示するなど全方位戦略を改めて強調する。 BYDの現地法人BYDモーター・インドネシアが17日の事前イベントで発表した、M6は3タイプある。販売価格は、スタンダード(7人乗り)が3億7,900万ルピア(いずれも首都ジャカルタでのオンザロード=OTR=価格)、スペリアー(7人乗り)が4億1,900万ルピア、スペリアーキャプテン(6人乗り)が4億2,900万ルピア。 中国などで投入済みだが、もともと「インドネシア市場のために設計されたモデルだ」(同社)といい、家族やグループでの移動を好むインドネシア人の需要に応えるため、初めてMPVを投入した。 航続距離は420~530キロメートルで、バッテリー容量は55.4~71.8キロワット時、独自構造のリチウムイオン電池「ブレードバッテリー」を搭載する。 BYDモーター・インドネシアのナタン・スン取締役(オペレーション担当)はNNAに対し、「9月までに納車を開始したい」と明らかにした。 M6の価格設定は、これまでに同社が販売していたモデルで最安の小型ハッチバック「ドルフィン」(4億2,500万ルピア)を下回ったことから、日系メーカーの関係者からは「クレイジーな価格設定だ」と驚きの声が聞かれた。 またBYDは同日、発売済みの小型スポーツタイプ多目的車(SUV)「ATTO3(アットスリー)」とドルフィンで、バッテリー容量を下げた低価格タイプも投入した。アットスリーのアドバンスドタイプ(バッテリー容量49.92キロワット時、航続距離410キロメートル)を4億6,500万ルピア、ドルフィンのダイナミックタイプ(44.9キロワット時、410キロ)を3億6,500万ルピアで展開すると発表。それぞれ5,000万ルピア、6,000万ルピア下げた。 今年1月に投入した3車種に続いて製品を拡充したことについて、BYDモーター・インドネシアのイーグル・チャオ社長は、NNAに「価格競争力のあるラインアップを増やし、EVの選択肢を広げたい」と述べた。 これまでEVは2列シートのSUVが中心だったが、需要の高い3列シートのMPVにM6が投入されたことでの市場への影響が注目される。 BYDはこのほか、高級SUV「YANGWANG(仰望)U8」を参考展示する。 ■トヨタ、王道プリウスで選択肢拡充 トヨタ自動車のインドネシア現地販売会社トヨタ・アストラ・モーター(TAM)は17日、トヨタのHVの代表車であるプリウスを発売。HVタイプはインドネシアで初の正規投入となる。日本から完成車(CBU)を輸入し、6億9,800万ルピアで展開する。電動車市場での競争に対応するため、輸入車の中では競争力のある価格に設定したという。プリウスのプラグインハイブリッド車(PHV)も同時に公開された。PHVタイプは年内もしくは2025年初めに投入する予定。 TAMの上田裕之社長は、NNAに「充電ステーションなどの現在のインフラ面を考慮すると、インドネシアにはハイブリッドがなじみやすいと考えている」と話した。トヨタはすでに2車種(キジャン・イノーバ・ゼニックス、ヤリス・クロス)のHVを現地生産しているが、今後のより低い価格帯の車種投入については「引き続き研究を続けている」と述べた。 トヨタは脱炭素化に向けて、EVからHV、燃料電池車(FCV)、バイオ燃料車まで、地域に合わせた幅広い選択肢を提供する「マルチパスウェイ・アプローチ」を改めて強調。インドネシアの主力車種であるMPV「キジャン・イノーバ・ゼニックス」でバイオエタノール燃料に対応するHVモデルを展示し、技術的な準備が整っていることを示した。また、FCV「MIRAI(ミライ)」、コンセプトモデル「FT―3e」を参考展示した。 このほか事前予約を開始する新型ピックアップトラック「ハイラックス・ランガ」も公開した。 ■ホンダ、EV「e:N1」を25年投入 ホンダのインドネシア四輪製販法人ホンダ・プロスペクト・モーター(HPM)は17日、EV「e:N1」を披露し、25年にインドネシアに投入すると明らかにした。同モデルはタイで発売済み。生産地などの詳細は未定だが、現時点ではインドネシアでの生産は計画されていないという。 一方でHVの現地生産計画について、HPMの浅岡亮取締役(商品企画・営業マーケティング担当)はNNAに、「国内で早期にHV生産を行えるよう検討を進めている」と明らかにし、電動車の拡充を進めていく考えを述べた。ホンダはこれまでに、SUV「CR―V e:HEV」と中型セダンのHV「アコード e:HEV」を輸入販売している。 ホンダはこのほか、特別展示として、「ステップワゴン e:HEV」や、回収した使用済みアクリル樹脂を再利用してボディーパネルを作るなど資源の循環利用をコンセプトにした「SUSTAINA-C Concept(サステナ・シー・コンセプト)」、ラストワンマイル用モビリティー「Motocompacto」を用意した。 インドネシアの新車市場は日系ブランドがシェア90%を占める一方、今年のGIIASには中国系ブランドが10社以上出展している、広汽埃安新能源汽車(AION)、北京汽車集団(BAIC)、奇瑞汽車傘下の「JETOUR」など新規の中国ブランドが増え、電動車を中心に展示・販売している。 インドネシア自動車製造業者協会(ガイキンド)によれば、EV、HV、PHVを合わせた全メーカーの電動車の1~6月の卸売り販売台数は、前年同期比62.8%増の3万7,788台。このうち、HVが約7割、EVが約3割を占め、HVをトヨタやホンダの日系ブランドが、EVを中国・上汽通用五菱汽車(SGMW)などがけん引する構図となっている。SGMWは今回、新製品の発表はなかった。 電動車市場が成長の初期段階にある一方、新車市場全体は停滞から抜け出せていない。1~6月の卸売り販売台数は前年同期比19.4%減の40万8,012台。現在の市況では、年100万台の大台に達するのは難しい情勢。販促が活発になるGIIASは、下半期(7~12月)の新車市場が浮揚するかを占う側面もある。 GIIAS2024は、首都ジャカルタ郊外のバンテン州タンゲランのブミ・セルポン・ダマイ(BSD)にある国際展示場「インドネシア・コンベンション・エキシビション(ICE)」で、18日から28日まで開催される。