イケアやトヨタ、サウスウエスト航空は、なぜ「低価格、気高い魂」を重視するのか
消費者はモノやサービスに対し、機能性だけでなく、暮らしの満足度を高めてくれる体験をますます期待するようになっている。ジョセフ・パインとジェームス・ギルモアが『新訳 経験経済』(岡本慶一、小高尚子共訳、ダイヤモンド社、2005年)でこの点を立証している。 もちろん、ウォルマートのように「価格」勝負の小売企業は、買い物する際に価格を最優先する人たちを取り込み続けるだろう。しかし「超越の時代」――ハートマンの「魂の時代」や、ダニエル・ピンクの『ハイ・コンセプト 「新しいこと」を考え出す人の時代』も同じ――には、増えつづけているある層にとって、価格は買い物する際の最優先にはならない。 ホールフーズを知っている人なら、ホールフーズは「ホールペイチェック[買い物すると給料が丸ごとなくなる、つまり高い]」と冗談めいた愚痴を耳にしたことがあるだろう。それでも、何百万という人々が結局買い物に来る。オーガニック食品も、放し飼いの動物の肉・乳製品・卵も、コストが余分にかかっていることを受け入れているのだ。だからこそ、セイフウェイに行けば「普通」サイズの卵が安く買えるのに、ホールフーズの放し飼いの鶏卵、グレードAのLサイズに、かなりの値段を快く支払っている。 つまり、「高価格(ハイプライス)、気高い魂(ハイソウル)」は、実現可能なビジネス戦略であるのは間違いない。では、「低価格(ロープライス)、気高い魂(ハイソウル)」は可能だろうか? コストコ、トレーダージョーズ、サウスウエスト航空、ジョーダンズ・ファニチャー、トヨタ、イケアを見ればわかる。いずれも、すばらしい価値を低価格で提供している。 コストコなどの愛される企業は、顧客にも、従業員やほかのステークホルダーにも、愛情を吹き込むビジネスモデルによって存続し、繁盛している。 愛は言葉では言い表せない愛着の気持ちであり、わたしたちをほかの存在とつなぎ、市場においては好きな企業のブランド・会社・従業員とつないでいる。企業の知的財産の価値について、声を大にして言いたい。企業の投資価値を評価するときに、その感情的資産も考慮してはどうだろう。
ラジェンドラ・シソーディア/ジャグディッシュ・シース/デイビット・B・ウォルフ/齋藤 慎子