本物志向、愛され半世紀 富山の喫茶店「たかなわ」、後継者不在で3月末閉店
富山市内で親しまれてきた喫茶店「たかなわ」が3月末、半世紀の歴史に幕を下ろす。全盛期は市内に4店舗を展開し、唯一営業を続けていた古沢店が後継者不在のため閉店する。創業者の寺島信康さん(78)は「最後まで居心地の良い雰囲気を提供したい」と語る。 たかなわは1972年、寺島さんが富山市丸の内の松川沿いに本店を開いた。85年に古沢店を開くなど、一時は4カ所まで店舗を拡大。2016年に本店を閉めて以降は、古沢店のみとなっていた。 こだわりは「本物志向」。サイホンで入れるコーヒーは、客の目の前でカップに注いだ。豊かな香りを楽しんでもらうとともに、注ぐ間に客とスタッフの会話が生まれるからだ。 本店時代から10年以上通う同市五艘の黒田義昭さん(84)は週2回来店し、コーヒーと厚焼き卵のサンドイッチを頼む。「口に味が染みついている。スタッフの感じも良かった」と閉店を惜しむ。 たかなわは、寺島さんが育てた花が店を彩るのも魅力の一つ。ガーデンをイメージしたガラス張りの古沢店は、店の内外がバラやアジサイなど四季折々の植物に囲まれる。
寺島さんが花の栽培を始めたのは20年ほど前。亡くなった妻が好きだったミヤコワスレを育て始めた。この3年前には「跡継ぎになる」と話していた高校生の次男を病気で亡くしていた。「家族という花は最後まできれいに育てられなかった。せめて、きれいな花を咲かせたい」。そんな思いで植物に愛情を注いできたという。 創業以来、寺島さんは簡単に店を休まなかった。「店はお客さんのもの。『今日は都合が悪い』と休めば信用を失う」と客を第一に考え、次男を亡くした時も葬儀の次の日にカウンターに立った。「お客さんからお悔やみの言葉をもらうと、風船を針で突かれたような感じになって…。調理場で力いっぱい泣いた」 古沢店は男性店主が昨年末に亡くなった。寺島さんは以前から後継者を探していたものの見つからず、苦渋の判断で閉店を決めた。「お客さんには『申し訳ございません』のひと言。花が一番きれいな時期を最後にお見せできないのが残念」と話した。