まるで「歌舞伎役者」 都営浅草線の新型車両に和へのこだわり
THE PAGE
都営地下鉄の浅草線に6月30日、新型車両「5500形」がデビューする。浅草線への新型車両の導入は20年ぶり。東京都交通局が11日に開いた報道公開に参加し、新型車両を「見て」「乗って」みた。
外国人観光客が「初めて乗る」地下鉄
都営浅草線の浅草橋駅ホームに、真新しい列車が入ってくる。新型車両5500形だ。先頭車両の正面には、下から上にかけて「逆八の字」形の赤いラインが走っている。そのラインに沿って配置されているLEDのヘッドライトは、つり目の人の鋭い眼差しのようだ。同局が「外観は歌舞伎の隈取りをアレンジした」と説明する通り、ハンサムな歌舞伎役者の顔に見える。
車内に入ってみる。座席を見ると、背面と座面の模様が違っている。都交通局車両電気部の竹下克(まさる)車両課長の説明では、背面は寄せ小紋、座面は亀甲模様。座席の端にある仕切りのガラスには、東京の伝統工芸である江戸切子風の柄がある。窓の日除けの柄には浅草線沿線ゆかりの伝統文化を取り入れた。例えば「花火」は隅田川の花火大会、「ちょうちん」は浅草・雷門の大ちょうちん、「ひな人形」は浅草橋付近で売っている人形をイメージさせる。竹下課長に教えられて気づいたが、左右の壁は和紙の柄、前後の壁は竹の柄になっていた。目立たず、地味な工夫だが芸が細かい。
歌舞伎をモチーフにした車体のデザインをはじめ、5500形から強く感じるのは、和のテイストへのこだわりだ。浅草線からは、京急線を経由して羽田空港に、京成線を経由して成田空港にアクセスできる。「沿線には、歌舞伎座の最寄り駅である東銀座や、浅草寺のある浅草といった誘引力のある観光スポットがある。日本に初めてやってきた外国人の方にとって、初めて乗る地下鉄が浅草線になる可能性は高い」と竹下車両課長。和の雰囲気をふんだんに盛り込んだこの車両で、訪日外国人をもてなそう、という狙いが伝わってくる。
5500形は、利用のしやすさや快適さも追求する。全車両にフリースペースを設置し、ベビーカーの小さな子ども連れの人々や大きなキャリーバッグを持ちこむ旅行客に配慮。吊手は浅草線で現在運行中の5300形よりも1車両あたり約30個増やし、より多くの乗客が利用できるようにしたほか、1人分の座席の幅も、5300形より15ミリ広くして、座り心地の向上を図った。荷物棚は5300形より130ミリ低くして、荷物の上げ下ろしをしやすくした。背の高い訪日外国人が座席から立った時、荷物棚に頭をぶつけないか少し気になるところだが、背の低い人やお年寄りらにとってはうれしい工夫だろう。竹下車両課長は「乗りやすさやバリアフリーへの対応など、人に優しい車両を目指した」と胸を張った。
都交通局は、浅草線が2020年に開業60周年を迎えるのを機に、車両の更新や駅構内の改装などのリニューアルを進める方針で、5500形の導入はその一環。羽田・成田両空港を結び、浅草や銀座といった江戸文化を堪能できる観光地を沿線に持つ浅草線にふさわしい車両を目指したといえる。現時点で1編成(8両)のみの導入だが、今後、全27編成を5300形から5500形に置き換える予定だ。 (取材・文:具志堅浩二)