【現地取材コラム】痛恨の極み。三笘薫を取材するはずが…。ブライトンの歴史的瞬間。決して忘れられないスターの行動
UEFAヨーロッパリーグ(EL)グループステージ第6節、ブライトン対マルセイユが現地時間14日に行われ、1-0でブライトンが勝利した。サッカー日本代表MF三笘薫が所属するブライトンが首位通過を決めるという歴史的瞬間を現地で取材した内藤秀明氏は何を感じたのだろうか。(取材・文:内藤秀明【ブライトン】) 【動画】三笘薫の想像を超越するゴールがこれだ!
●2人のベテランがブライトンにかけた魔法 「ヨーロッパリーググループステージ1位通過」という結果をプレミアリーグのビッグ6のファンが聞くと、「それくらいしてもらないと!」と思うファンも多いのではないだろうか。いや、さすがにこの物言いは傲慢か。ただ少なくとも大喜びというより、一安心という感覚の方が強いのではないだろうか。ただ2017年にようやくプレミアリーグ初昇格を決めたクラブにとっては、欧州カップ戦は夢の舞台だ。そしてそこでの躍進は最高の時間なのである。 現地時間12月14日、ブライトンはELグループステージ第6節マルセイユとの首位攻防戦で見事1-0の勝利を収め、首位通過を決めた。試合後のスタジアムはまるでタイトルをとったかのようなお祭り騒ぎだった。 試合展開もその喜びを加速させた。2度自陣のゴールポストにシュートが当たるギリギリの展開の中、88分にジョアン・ペドロが強烈なシュートをファーに叩き込んだのだ。そしてその劇的な展開を作ったのは35歳の元ガラスの天才だ。 その興奮の瞬間に至るまで、日本代表FW三笘薫が左サイドを切り裂き、何度も得点機を演出していた。しかし過密日程の疲れのせいか、ラストパスがギリギリ味方に合わない。70 分を過ぎたころには勝ちきれない匂いを感じたファンもいたはずだ。 しかし74分に入った2人のベテラン、35歳のアダム・ララーナと、37歳のジェームズ・ミルナーがチームに魔法をかけた。特にララーナは70分を過ぎてややマンネリ化しつつあったパスワークに、ワンタッチパスで一気に変化を加えたのだ。その変化にパスカル・グロスが呼応して、最終的にペドロが強引に得点を生み出した。 ●忘れられない得点直後の立ち振る舞い 得点直後の立ち振る舞いも忘れられない。マルセイユのボールで再開した際、ララーナは誰よりも前のめりにプレスを敢行して、背中でチームを引き締める動きを見せた。その奮闘もあってか、ブライトンはその後マルセイユの攻撃をシャットアウトして、見事勝利をもぎ取った。 スタッツサイト『Sofascore』によると、ララーナの採点は6.6点(10点満点)だったが、スタッツには反映されないベテランの凄みを感じた20分でもあった。 さて本題に戻ろう。試合後のアメリカンエクスプレススタジアム(通称アメックス)は、見たことがないようなお祭り騒ぎだった。爆音で流れるアップテンポな曲調に合わせて多くのファンが手拍子をならし、タオルマフラーを振り回す。さすが音楽が盛んで、クラブ文化もある街だ。喜び方はブライトンらしい。 ただ従来イングランドのファンは試合の後は勝っても負けても、もの凄いスピードでスタジアムから帰宅していく。スタジアムの導線が優れていることもあり驚くほどに早く、観客席からは人がいなくなる。仮にスタジアムに残ったとしても、コンコースでビールを飲みながら仲間と語り合うパターンが多い。特にアメックスのように新しいスタジアムの場合、試合後も滞在できるようにデザインされている。多くのファンはスタジアムの内側で歓談するのだ。 しかしこの日は違った。5分たっても、10分たっても最高の勝利の余韻を楽しむべく、多くのファンがスタンドに残っている。それに呼応して選手たちもグラウンドを一周してファンの歓声に応えている。 まるで既に何かしらのタイトルを獲得したかのような雰囲気に会場は包まれていた。 ●筆者のミス 試合後1時間程度経過してからスタジアムの外に出ても、ファンたちの興奮は止まらなかった。チャントを大声で歌い興奮し続けるファンも多い。記者会見でもロベルト・デゼルビ監督は興奮気味だったように思える。勝利の立役者の一人であるビリー・ギルモアに対して「インクレディブル、インクレディブル、インクレディブル」と繰り返した。 最後に、恥ずかしい話だが、筆者は自分のミスを告白しなければならない。というのも本来聞けたはずの三笘のコメントを聞けなかったのだ。 従来、私服に着替えてからミックスゾーン(取材エリア)に現れる日本代表戦士だが、この日はユニフォーム姿のまますぐに出てきたそうだ。 「少し待ってからいったほうがいいよ」というアドバイスを聞き、少しメディアルームで仕事をしてから向かったところ、三笘はすでに帰宅してしまっていた。 わざわざ高い旅費をかけて日本からブライトンにまで来て、ご機嫌かもしれない三笘へのインタビューの機会を逃すとは…。痛恨の極みである。自分に用心が足りていなかった。もし念の為、先にミックスゾーンで待っていれば、一人で三笘に質問できたかもしれないことを思うと、後悔の気持ちがつのるばかりだ。 「こんなことは初めて」と聞いたが、なんで今回に限って…。ただ、もしかしたら、それほどに今晩は特別な夜だったのかもしれない。そういうことにしておこう。 (取材・文:内藤秀明【ブライトン】)
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