<北朝鮮内部>金政権が貿易会社を容赦なく大リストラする目的は?(2) 「個人の所有物のように変質」と腐敗批判 貿易会社と市場の遮断を徹底
◆金正恩氏と中央から直々の指示
――金正恩氏の指示と承認があったはずだと考えられるが。 中央から降りてきた内容には、「『国家貿易』を本格的に推し進めるとともに、対外経済省の統一的な貿易政策を基盤とする自主的な貿易原則を守り、国家の地位を作り直さなければならない」という金正恩の指示のマルスム(お言葉)があったそうだ。 ※国家貿易 輸出入する品目や量を国家が主導管理する貿易システム。2019年頃から始まった。それ以前は貿易会社が一定の裁量を持っていた。
◆住民への影響…輸入品の商売はほぼ壊滅
――貿易会社に対する統制が厳しくなったことで、住民たちの商行為にはどんな影響が出ているか? 私は恵山市内の市場で長く中国製の衣料品を販売してきた。貿易会社に出向いて輸入した衣料品を仕入れ、市場で売ったり地方の商人に卸したりして、私1人の商売で、毎月3000中国元(約6万2000円)くらいの純利益を上げていた。 今はそんな世の中ではなくなった。コロナの時には中国製品がまったく入って来なかったけれど、最近は国の承認を得た少量の中国製衣料品が入って来る。しかし、貿易会社はそれを個人に卸すことができなくなった。すべて国営商店や委託買取商店に卸し売りしなければならない。輸入代金はそうやって作れということだ。 ※委託買取商店 資金の乏しい官営の商店には、商品を預かり売れたら精算する形式の販売委託形式を採る所が少なくない。 だから、これまで「トンチュ」(金主の意、新興富裕層)が、貿易会社の品物を独占的に受け取って流通させる時代は終わったのだ。中国から輸入され品は、すべて国営の商業網に行く構造だ。市場の商人は、国営商店から一部を売ってもらって市場で販売していたが、利益がわずかしか出ないので、多くの人が市場での商売やめてしまった。私もやめた。
◆大リストラは2023年末から開始された
――貿易会社の大リストラはいつから始まったのか? 恵山市で小さな「基地」を持つ貿易会社をなくしたり整理したりし始めたのは昨年からだ。昨年末には基本的にすべての統廃合が済んだと思う。「国家貿易」を通じて中国に輸出できる会社だけを残し、独自に国内資源を集めて輸出して儲け、計画(国に課されたノルマ)を遂行していた「基地」はすべてなくなったはずだ。 ※「基地」 外貨を稼ぐための輸出品や「賃加工」品の生産と集約の拠点組織のこと。権力機関や貿易会社の傘下に多数作られ、特権的に物流に関わった。 ――「基地」の従業員はどうなったのか? 私の知人は「基地」で輸出用の物資の管理をしていたが、解散させられてビール工場に労働者として配置された。このような構造調整をたくさんしている。 ――今後、輸出用の物資は誰が集約することになるのか? 小さな貿易会社が担ってきた「源泉」の仕事は、国営商店や国営の商業管理所でやれということになった。しかし、ちゃんとできるか疑問だ。「源泉」を集めて売りに来る地域の住民を把握していなければならないし、車両や燃料も準備しなければならない。国営の流通機関はそんなことは何も知らないはずだ。うまくいかないのではないか。 ※「源泉」 主に中国に輸出される外貨稼ぎ用の品は、漢方薬の材料や山菜、水産物などの一次産品が多い。一般住民が野山や海で採取したものであり、外貨稼ぎの「源泉」と呼ばれる。 金正恩政権が昨年末から敢行した貿易会社の大リストラは、実質的に多くの権力機関の利権を没収するものであった。金正恩政権が2019年頃から始めた「反市場」政策の一環であるが、それは経済的動機というよりも、強力な政治意思によって推進されて来たのであった。 (了) ※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。