今春、東京まで自転車で600km走破した神戸の90歳男性「もっと遠い所へ行ってやろう」 今度は鹿児島へ、12日間で910km走破
90歳の元写真店主、谷上満夫さん(神戸市西区)が、電動アシスト自転車で自宅から鹿児島まで、通算12日かけて約910キロを走り抜いた。春には東京まで約600キロを走破したばかり。もっと遠い所へ行ってやろう-。そんな思いに駆られ、今度は九州を目指した。途中、台風の接近で一時帰宅を余儀なくされたが、家族の支えもあり、最後まで諦めることはなかった。(森 信弘) 【写真】「息子に会いたい」89歳父が自転車で600キロ走破 神戸から東京へ9日間 雨と格闘「20回こけた」 谷上さんは明石駅南の明石銀座商店街で2017年まで60年以上にわたり、写真店を営んだ。90歳近くになって電動アシスト自転車の便利さに気付き、1年ほど前から遠出をするように。今年3月、東京に住む長男の直也さん(62)の自宅まで、9日間かけて1人で約600キロを走った。 目標達成の喜びをかみしめ、次は九州を目指すことにした谷上さんだが、東京行きでは雨でタイヤが滑るなどして20回ほど転倒。道に迷ったこともあり、今回は安全のため、愛知県に住む娘婿の上原春男さん(65)が伴走することにした。 2人は9月25日に神戸の自宅を出発。直也さんが事前に大まかなルートを調べ、基本は、国道2、3号を走った。上原さんがスマートフォンの自転車用ナビゲーションアプリを使ってより走りやすい道を助言した。 ■試練 国道では白線の外側を走り、脇道にも入った。谷上さんは「アップダウンもあり、きれいな道ばかりではなかったが、自転車で走る道は気持ちいい」。時には道端で大の字に寝転び、上原さんに見守られながら体力を回復させた。ホテルや旅館に着くと「風呂に入れる」と喜び、睡眠はよく取ったという。 岡山、広島を通り、関門海峡は海底トンネルを自転車を押して通行。30日に北九州市門司区に入った。しかし、その段階で台風が近づいており、再開の見通しが立たなくなった。趣味の彫刻の作品を展覧会に出品する作業が控えていたこともあり、いったん新幹線で自宅に引き返すことに。自転車をホテルに預かってもらい、10月14日に門司から再スタートを切った。 試練は他にもあった。今回、転倒は3回ほどと大幅に減ったが、下り坂でスピードが出過ぎて、派手に転んだことも。左のひじやひざから出血したが、「こんなことでやめられるか」と、ペダルをこぎ続けた。 ■反発心 目的地の鹿児島市に着く前日、帰りの段取りをしている上原さんの姿を見て「1人やったら、ここまで来られなかった」と感謝の気持ちがこみ上げた。同市内に入ったのは19日の昼過ぎ。国道3号終点のモニュメント前などで写真を撮り、喜びを分かち合った。 帰りはレンタカーで移動し、宮崎港からフェリーに乗って神戸に戻った。帰宅後、特に疲れが出ることもなく元気に過ごしている。 今回の旅を振り返り、谷上さんは「心配していたパンクがなく、泣けてくるくらいうれしい」と涙ぐむ。自転車で見る景色も格別だった。「山がいっぱいあってきれいやな、と。形もいろいろで海も見える。日本はすごいなと思った」 上原さんは「無事帰ってこられてほっとした。(谷上さんは)上り坂の途中で止まっても、ガードレールにもたれて数分休んだらまた出発する。絶対に諦めない」と感心する。谷上さんは「(高齢になった)自分の体に負けなかった。やってやろう、という反発心があるので、しんどさよりもうれしさが大きい」と話す。