【イベントレポート】吉田大八×長塚京三「敵」TIFFで3冠、トニー・レオン「大好きな映画を見つけられた」
第37回東京国際映画祭のクロージングセレモニーが、本日11月6日に東京・TOHOシネマズ 日比谷で開催。各部門の受賞結果が発表された。 【画像】左からトニー・レオン、長塚京三 トニー・レオンが審査委員長、エニェディ・イルディコー、橋本愛、キアラ・マストロヤンニ、ジョニー・トーが審査委員を務めた今年のコンペティション部門。東京グランプリ / 東京都知事賞には吉田大八が監督、長塚京三が主演を務めた「敵」が選ばれた。吉田は最優秀監督賞、長塚は最優秀男優賞に輝き、3冠に。トニー・レオンは「本当に素晴らしい映画。胸を打たれました」とたたえた。 長塚は最優秀男優賞のトロフィーを手に「『敵』は歳を取って、1人ぼっちで助けもなく、敵に取り込まれてしまう話なんです。(受賞を受け)でも味方もいるんじゃないかと気を強くした次第です」と述べ、「もう引退かなと思っていた矢先でした。うちの奥さんは大変がっかりすると思いますが、もうちょっとこの世界でやってみようかという気にもなってます。ありがとうございました」と挨拶。吉田は「自分がいい監督かどうかは自信が持てないのですが、間違いなく皆さんのおかげでこの映画はいい映画になったと思っています」と語り、「東京はいいところですよね。味方も意外に多いということに気付けました。これからも映画をよろしくお願いします」と口にした。 そのほか、コンペティション部門の審査委員特別賞はイバン・D・ガオナが監督を務めた「アディオス・アミーゴ」、最優秀女優賞は「トラフィック」のアナマリア・ヴァルトロメイ、最優秀芸術貢献賞はドン・ズージェン(董子健)の監督作「わが友アンドレ」、観客賞はヤン・リーナー(楊荔鈉)の監督作「小さな私」に贈られた。またアジアの未来部門の作品賞にはエミネ・ユルドゥルムが手がけた「昼のアポロン 夜のアテネ」が選ばれている。 トニー・レオンは「映画祭、そして審査員メンバーの4人に感謝します。緊張しましたし、刺激的な経験でした。正直、いい映画に出会えなかったらどうしようとハラハラしたんですが、全員一致で大好きな映画を見つけることができました」と笑みをこぼし、「近い将来、東京国際映画祭でまたお会いできるとうれしいです」と客席に語りかけた。 クロージングセレモニー終了後には、東京・LEXUS MEETS...にて受賞者会見が行われた。まず登場したのは「敵」の吉田と長塚だ。吉田は「映画を作っている間は苦労もあるんですが、こんなに華々しいこともあったりして。映画作りってこういうことがあるから楽しいんだなって改めて思いました」としみじみ語る。「こういう事態になるとは想像もつきませんでした」と受賞に驚く長塚は「撮影を終えるのに精一杯で、まさか映画祭に呼ばれて、賞までいただくなんて。家族、妻のサポートがあったからこそです」と感謝。これを受け、吉田は「映画は俳優を見に行くものだと思っています。その考えは映画を作り始めてからも変わりません。俳優賞をいただけたということは、そんな自分の思いが届いたと思っています」と述べた。 続いて登場したのは、中国映画「わが友アンドレ」の監督ドン・ズージェンと主演のリウ・ハオラン(劉昊然)、「小さな私」の監督ヤン・リーナーとプロデューサーのイン・ルー(尹露)。ヤン・リーナーは「今回の映画祭で観客の皆さんと交流する機会があり、いろいろと感想をいただくことができました。若い人たちから『心が和んだ』『励まされた』というフィードバックがありました」とうれしそうに報告し、イン・ルーは「日本の観客の方の感想を読んで、心が温まりました」「日本で正式に配給して、より多くの人に観てもらいたいです」と期待を込める。 ドン・ズージェンは「9年前に新人役者として初めて日本に来て、今回、新人監督としてデビュー作をお見せすることができた。うれしいですね」とほほえむ。リウ・ハオランは現在日本公開中の出演作「国境ナイトクルージング」に触れ、「友達、若者の成長といった、日本の観客の皆さんも興味があるものを描いています。また再び日本の皆さんにお会いする機会もあると思います」と伝えた。 会見終盤には「昼のアポロン 夜のアテネ」の監督エミネ・ユルドゥルム、「トラフィック」の監督テオドラ・アナ・ミハイ、「アディオス・アミーゴ」の監督イバン・D・ガオナが姿を見せる。「トルコでは女性監督が増えているのか?」という質問が飛ぶと、エミネ・ユルドゥルムは「残念ながらトルコは家父長制が強く、映画産業も男性が強いです。ただ女性監督の活躍が少しずつ見られるようになりました」と回答する。 「本作を制作するにあたって、脚本を手がけたクリスティアン・ムンジウとはどんなやり取りがあったのか?」と尋ねられたテオドラ・アナ・ミハイは「私は8歳のときに東欧から西洋へ移住したんですが、両方の文化に精通しているけれど、どちらの文化にも入り込めていないという感覚があります。そういったことを作品のテーマに掲げていて、(クリスティアン・ムンジウは)それを感じ取ってくれました」と明かした。 そしてイバン・D・ガオナは「アディオス・アミーゴ」がマカロニウエスタンスタイルの映画であることに触れ、「この仕事を始めてから、自分たちの歴史やルーツをどう伝えればわかりやすくなるんだろうと考えるようになりました。ウエスタンは自分にとって身近な素材。出身地にはウエスタン映画に出てくるような土地がたくさんある。映画のテーマをウエスタンに乗せて伝えると、とても身近に感じていただけるのではないかと思ったんです」と狙いを明かした。 第37回東京国際映画祭の受賞結果は下記の通り。 ■ 第37回東京国際映画祭 受賞結果 □ コンペティション部門 東京グランプリ / 東京都知事賞 「敵」 審査委員特別賞 「アディオス・アミーゴ」 最優秀監督賞 吉田大八(「敵」) 最優秀女優賞 アナマリア・ヴァルトロメイ(「トラフィック」) 最優秀男優賞 長塚京三(「敵」) 最優秀芸術貢献賞 「わが友アンドレ」 観客賞 「小さな私」 □ アジアの未来部門 アジアの未来 作品賞 「昼のアポロン 夜のアテネ」 □ 黒澤明賞 三宅唱 フー・ティエンユー □ 特別功労賞 タル・ベーラ □ 東京国際映画祭エシカル・フィルム賞 「ダホメ」 (c)2024 TIFF