【連載】プロクラブのすすめ⑲ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] すべてを集結させた新たな練習施設を!
日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。 19回目となる今回は、かねて動いている練習施設の新設について語ってもらった。 ◆過去の連載記事はこちら ――2024-25シーズン開幕まで80日を切りました。ブルーレヴズとして動きはありますか。 プロ野球の東北楽天ゴールデンイーグルスに勤めていた方が10月からブルーレヴズに来てくれることになりました。 片岡さんといいますが、試合演出やイベントの企画に携わっていました。楽天は2004年の創設以降、仙台でゼロの状態から取り組まれてきた。そこに長く貢献された方です。 これまで試合演出やイベントの企画を頑張ってくれた五郎丸(歩CRO)くんが退任しましたので、楽天での経験を活かして試合をどんどん盛り上げてほしいと思っています。 もう一人、欠員補充という形になりますが、チケット専任の営業担当も採用を予定しています。できればこちらもプロ野球で経験のある方が採用できればと思っています。 プロ野球はシーズンチケットに始まり、様々な種類のチケットがありますが、それらをかなりしっかりと営業しています。そうしたチケット営業のノウハウは、われわれにはかなり足りない部分でしたので、プロ野球で実績のある人を招き入れることができるのはとても心強いです。 これまではポスターやチラシ、SNS、CMといったマスのマーケティングでチケットの販売促進をおこなってきましたが、これからはもっと個人や法人にダイレクトにセールスしていくことが必要になります。 対企業への営業というのはどうしてもスポンサーになっていただくことにフォーカスしがちです。われわれはスポンサーの最低金額を50万円に設定していますが、50万円は難しいけどそれ以下で支援したいというお客様もいるわけです。そうした方々には例えば団体チケットをセールスしていく。これが今までやり切れていなかったところです。 ここに専任部隊を置くことで、これまでアプローチできていなかった層の方々ともコミュニケーションを取っていきます。 例えば税理士や弁護士、医師などいわゆる士師業の方々は事務所やクリニックを個人で開業しているので、スポンサーになることはあまりありませんが、チケットは買っていただける可能性が高いという印象です。 税理士会や医師会といったところにもお邪魔させていただき、チケットの案内をできるような関係性を作っていきたいです。 世の中にはロータリークラブやライオンズクラブなど、さまざまな会合や業界の集まりがあります。お願いをすれば、5分だけ時間あげるからPRしていいよ、とか、チケットの即売会をやっていいよと言ってくださる方々もいるんです。 そういった機会に一度で10万~15万ほど売れることもあるし、その時に即売で買ってくれなかったとしても、後々スポンサーに繋がるケースもあります。 ――一方でスポンサーは開幕前が佳境ですね。現状はいかがでしょう。 開幕に向けてもそうですし、会社の決算が変則で12月ですから、残り3か月程度、ここが正念場です。 今日も朝に会議をしましたが、緊張感がありました。一人ひとりが目標金額の残額に対してどのようにして積み上げていくかをシミュレーションして、具体的にどういうやり方で達成するのかをガッツリ話し合いました。 スポンサー営業は最重要課題なので、僕も最近はこちらの方にかなりシフトしています。様々な会合や講演会でお会いしたお客様に直接アポを取って、営業担当を連れて行くことも多いです。 チームが8位に甘んじていることもあって、お客さまからは「成績が…」と言われてしまうことも当然あります。でも、スポンサーの数自体は減っていませんし、新規のお客さんも地道に増えています。 ただ、もうワンランク上のスポンサー商材を買っていただきたい時の壁がいまはあります。 そこはやはり、われわれが強くなるのが一番分かりやすいし、スタジアムが新しくできるとか、何かしらのアップデート感が出てくるとスポンサーセールスはしやすくなる。今がまさに正念場です。 ――今回は新たに社員を採用しましたが、他のスタッフの部署異動などはあるのでしょうか。 ブルーレヴズは基本的に中途採用ですし、職種を決めて採用の募集をかけるので、部署の異動はほとんどありません。 ただ、昇進などはもちろんありますよ。今年でいえば成果を出したグッズのスタッフは管理職に登用しました。グッズはまだまだ伸びる領域ですし、結果を出した人はしっかりと評価をしていきます。 ヤマハ発動機がグループ会社も含めて全社で取り組んでいる社員意識調査も年に1回やっていて、この間結果が出ました。 昨年は社長のビジョンが見えないとか、社長が何を考えているかわからないという声もあったのですが、今年は2週に一度、社内に向けたブログを書いていまして、自分の考えはそれなりに浸透してきたのかなと思っています。 働いている人がやりがいを持ったり、夢や目標を持てる状況を常に作っていかなければいけないと思っていますし、優秀な人がどんどん入ってきてくれているだけに、その人たちをがっかりさせずに入ってよかったと思ってもらえる会社を作っていきたいです。 ――社員も増えたことで、2022年に磐田駅前の商業施設から移転した新しい事務所はすでにパンパンでしょうか。 僕も含めて全員がフリーアドレスなのですが、それでもいま席が足りなくて、会議室を執務スペースにしている状況です。営業担当など外出している人も多いのでなんとかなっているのですが。 オフィス環境をどうするのか、というのは成長企業が必ずぶち当たる壁です。 もちろん、僕自身も大きな課題のひとつと捉えていて、理想的にはチームが練習しているところに、事業スタッフも含めてみんなが集結したいと考えています。いまは大久保グラウンド(クラブハウス)と会社のオフィスは車で10分程度離れたところにありますから。 なので、以前にもお話ししましたが、練習場を新しく作れないかというのを模索しています。できれば3~5年以内に作りたいと思っています。 いまの施設の課題は他にもあり、一面しか芝のグラウンドがないので、人工芝と天然芝の2面は欲しい。そうすれば、アカデミーやユースチームなどがより円滑に活動できます。 (食堂やウエートトレーニング場がある)ブルーレヴズの専用寮も練習場とは別の場所にあります(車で15分程度)。食堂やウエートトレーニング場も本来はクラブハウスと同じ場所にあるべき。 このすべてを実現できる場所を探している段階です。 ――以前お話ししていた時は、土地はあってもその多くが農地だと。日本では農地を宅地に変更するのは年月がかかると聞きます。 ただ、根気強く探していると、意外と出てくるものです。 現時点ではいくつか候補地が出てきていて、行政と連携しながらやっていこうと話し始めています。この1年ぐらいで方向性が見えてくればいいなと思っています。 ――新しい練習場ができれば、山谷社長が以前から温めていたサテライトチーム(2軍)の創設など構想の実現に近づきます。 そうですね。まずは、いま取り組んでいるスクール事業をもっと発展させて、中学生のクラブチームをしっかり作りたいです(現在は主に週に1回の活動)。 また、高校生のクラブチームも作りたいと思っています。 ラグビー人口の減少は顕著ですし、高校はどんどん単独で組むのが難しくなっています。磐田の近隣の高校にラグビー部を作ってもらい、その合同チームをわれわれが指導する形、実質のU18のユースチームというやり方もありだと思っています。それであれば花園も目指せますし、進学校など自分の行きたい高校に通いながらラグビーを続けられます。 もしかしたら飛び級でブルーレヴズのトップチームと契約できる選手が出てくるかもしれません。ラグビーを続けるために、いろんな選択肢があって良いと思っています。 チームのアシスタントコーチにU18のヘッドコーチを任せてみるのもいいですよね。コーチの育成にも繋がります。 (文:明石尚之) PROFILE やまや・たかし 1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任