松林伯知先生、入船亭扇七さん ごひいき願います!
デジタル時代だが、落語がブームです。講談・神田伯山や浪曲・玉川奈々福の活躍もあり演芸も元気がいい。チケット入手が困難な人気者も相当数います。この勢いに続けと、若手でも有望な芸人さんが多く登場してきました。彼らに注目しているひとり、落語・演芸を長く追い続ける演芸写真家・橘蓮二が、毎回オススメの「期待の新星たち」を撮り下ろし写真とともにご紹介いたします。 【全ての画像】松林伯知、入船亭扇七の写真ほか(全9枚)
「才能が入る器」──松林伯知
“できない”表現と“やらない”表現は一目瞭然である。状況を見極め“キチンとやらない”ためには受け手の想定の遥か上をゆく知識量と経験値そして鋭敏な感性が求められる。今春、三代目襲名と同時に真打ち昇進を果たした気鋭の講談師、松林伯知先生の高座は心を委ねて楽しめる包容力とダイナミック且つ繊細な所作による描写、さらに豊かな語彙力を感じさせるグリップの効いた台詞廻しに惹き付けられる。 中学生の頃より新撰組に傾倒、高校時代は図書委員を務める読書家。とにかく調べものが大好きで国立国会図書館通いは現在も続いている。東京女子大学文理学部史学科に進学、狂言研究会に所属し、歴史好き古典芸能好きに拍車がかかる。様々な伝統芸能を勉強した上で何故講談の世界に飛び込もうと決心したかの最大の理由は歴史を自由に物語の中に反映させられることだと言う。2009年古典は元より絶妙な歴史の盛り込み方と多彩な演出で数々の新作講談を創作し続ける神田紅先生に入門、11月より前座名「真紅」で楽屋入り、2024年3月真打ちに昇進した。 評価の高い古典に加え100作を越える新作講談を生み出すセンスもさることながら、これまでに見聞した全ての経験を秩序立てて分析する知性と捉えた感覚を講談にどう取り込んでいくかを常に念頭に置き実践できる行動力は才能が入る器が如何に大きいかが伺い知れる。「情報を盛り込み過ぎない」との師匠の教えを守り、膨大な時間をかけ仕入れた知識も高座では程よく手離しカットしながら現代的な言葉も交えシンプルに伝えることを心掛ける。狂言での経験も複数の演者が台詞を掛け合う本狂言よりも能の中でひとり語りと謡いで物語を進行させる間狂言(あいきょうげん)に自身の適性を見出だし観客との間合いの取り方に活かすなどどんな局面に於いても冷静に吸収できる力が素晴らしい。加えて幕末から昭和にかけての人物伝やお客さまを巻き込みながら一緒に楽しむ昭和歌謡講談等など、自由自在な講談の魅力を最大限に発揮する柔軟な発想と取り組み方が講談界を一段と押し上げていく大きな力になっている。 「歴史を盛り込んだ後世に残る作品を数多く残したい」と真打ち昇進に際し憧れ続けた名跡を継いだ三代目の決意は揺るがない。「新旧なんでもこいの伯知」と言われた初代、花形活弁師から華麗に転身した二代目、共にマルチでサブカル、代々時代を軽やかに駆け抜けた生粋のエンターテイナーだった。新時代の「松林伯知」が躍動する。その姿に未来の講談界で三代目が語り継がれることを予見させる。
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