変幻自在な俳優ユ・ヨンソクへインタビュー!最新主演映画『マイ・ハート・パピー』に込めた想い
ある時は小児外科医として子ども好きの優しい表情でファンを魅了し、またある時はサイコパスとして狂気と凄みを見せる。ユ・ヨンソクのように、あらゆる役柄を縦横無尽に的確に演じ分ける俳優はそう多くはいないだろう。そんな彼が最新作に選んだのは、犬と人間にまつわるとびきりのハートフルストーリー『マイ・ハート・パピー』(公開中)だ。 【写真を見る】長丁場に渡る撮影でも笑顔を絶やさない人柄が印象的だったユ・ヨンソク このたび、日本公開に合わせて来日したユ・ヨンソクにインタビューを敢行。1日3回の舞台挨拶、さらに翌日にはファンミーティングも控えるという超多忙なスケジュールにもかかわらず、優しい笑顔を絶やさず真摯に取材に応じてくれた。 ■「必ずやらなければ」ユ・ヨンソクに出演を決意させた『マイ・ハート・パピー』の重要なメッセージ 編集者として働くミンス(ユ・ヨンソク)は、ゴールデンレトリバーのルーニーと子どものころから一緒に過ごしてきた。恋人ソンギョン(チョン・インソン)へのプロポーズも成功し、人生は順風満帆…と思いきや、ソンギョンから思いがけない秘密を打ち明けられる。彼女は深刻な犬アレルギーで、これまで薬を飲みながらルーニーに接していたのだ。ソンギョンの身体を気遣ったミンスは、弟のようなルーニーを苦渋の思いで里子に出すことを決意する。同じころ、従兄弟のジングク(チャ・テヒョン)は、経営するカフェが潰れて人生の崖っぷちに立たされていた。しかし面倒見の良い彼は、ミンスの苦悩を聞いて、ルーニーの完璧な里親を探すための手助けを買って出る。 デビュー作『オールド・ボーイ』(03)以来、様々な役柄へ挑戦してきたユ・ヨンソク。『マイ・ハート・パピー』への出演は、自分自身のキャリアアップ以上に重要な意義を感じてのことだった。 「台本を頂いた時、映画そのものが持っているメッセージがとても印象的だと思いました。この映画に私が出演しなければ、登場する子犬たちを拒絶するような気がしてしまい、必ずやらなければならないと思いました。この映画のメッセージがうまく伝わり、残念な目に遭う子犬がいなくなることを願って出演を決めました」 ■名演技にユ・ヨンソクも脱帽?「ミンスの繊細な感情表現ができたのは犬たちのおかげ」 こう語るほど、とにかく犬たちを最優先で考えていたユ・ヨンソク。撮影中のエピソードを聞くと、「私の演技やセリフよりも、犬と一緒に撮影したシーンが一番心に残っています」と、表情を綻ばせた。彼が演じたミンスは、ルーニーを愛し、恋人ソンギョンや従兄弟ジングクを大切に思う心の温かいキャラクターだが、そんな優しい性格ゆえに、家族にまつわるトラウマにも苦しんできた。劇中、ミンスはよく涙を流す。彼の繊細な感情表現は、共演した犬たちからのインスピレーションによるところが大きかったと、ユ・ヨンソクは語る。 「ミンスが動物たちと交流する場面では、特に作り込んだような演技をしなくても、ワンちゃんたちと心を通わせることで、自然に気持ちが高ぶりました。たとえば、母が亡くなって泣いている私をルーニーが慰めに来てくれるシーンがありますが、そういうのって、訓練して撮れるものじゃないんですよね。でも『とにかく一度やってみよう』とカメラを回してみたら、ルーニーが本当に私を慰めるようにやって来てくれたのがすごく感動的でした。これほど涙を流しながら撮影したのは初めてなんですが、動物を愛する人なら、この映画を観ると誰でも涙が出ると思います」 もちろん、自由気ままで愛らしい”主演俳優たち”は、監督や俳優陣の思惑通りにはいかない。それもまた幸せな思い出だった。 「済州島の海辺でのシーンは、絵コンテだと子犬たちが自由に走り回ると描いてあったんですが、あの子たちに私たちが望むような演出ができなくて(笑)。結局、みんなでリードを握って撮影したので、どんな風に撮れているか不安ではあったんです。でも完成した映画を観ると、子犬たちが私の周りで地面を掘ったり、じゃれ合ったりしている姿がとても可愛く映っていて、安心しましたね」 ミンスとジングクはルーニーの里親を探すも、なかなか完璧な飼い主に出逢うことができない。そのうち、たくさんの犬と共に済州島で暮らすある女性を知ると、彼女へ預けることが最善だとして、ソウルから済州島への長い旅へ出かけていく。こうして映画はロードムービーのスタイルを取っていく。撮影中は、ソウルから済州島へ渡ったという長丁場の移動の苦労と、生き物ならではの微笑ましいハプニングも起きていた。 「一番に気をつけたのがやはり主人公である犬たちですね。季節が夏だったので、あの子たちが暑がっていたらと心配していましたし、とにかく犬たちのコンディションを最大限に尊重しなければいけませんでした。なので、犬たちの調子が良い時に撮影をして、残りの時間に僕らだけの撮影をしました。ただ、雨でしばらく撮影ができない日が続いて、その間に子犬たちが大きくなってしまって(笑)。編集でうまく繋げなきゃいけなくて、監督が苦労されていたのがおもしろかったですね」 ■チャ・テヒョンとのケミストリーにファン喝采!監督と俳優陣が作り上げた絶妙な会話シーンも 若手のころからユ・ヨンソクを応援してきたファンにとっては、チャ・テヒョンとの再会もうれしいはず。ドラマ「総合病院2」以来の共演で、本人も胸を躍らせたという。「(チャ・テヒョンは)とてもセンスが良くて親切で、後輩の面倒をよく見てくれるありがたい先輩」と尊敬を口にするが、実はプライベートでずっと親交を続けてきた近しい間柄。「あえて演技をする必要もなく、カメラを回せば2人の親しい姿が自然に出てきたんです」と明かすように、映画では親戚の兄弟という役柄にまったく無理がない。 2人の絶妙なコンビネーションには、パク・ソジュンとカン・ハヌル主演の『ミッドナイト・ランナー』(17)や、ウ・ドファンとイ・サンイ主演のドラマ「ブラッドハウンド」など、バディものを得意としてきたキム・ジュファン監督の手腕が遺憾なく発揮されている。まるでアドリブのようにナチュラルで小気味よいやり取りが多いが、ユ・ヨンソクが予想していたほどアドリブは多くはなかったそうだ。 「アドリブが多かったのは、ジングクが叔父の家から黒いラブラドールレトリバー、レイを引き取ったことで、ミンスと車中でちょっとした口げんかをするシーンくらいですかね。撮影前にそのシーンについてチャ・テヒョンさんとたくさん話し合いましたし、監督も我々俳優陣の意見を十分に反映しながら、脚本に書かれたシチュエーションや台詞を修正してくれたりしました。そういうとこが、キム・ジュファン監督のすばらしいところだったと思います」 ■『マイ・ハート・パピー』出演でユ・ヨンソクが手にしたかけがえのない幸福、そして自分自身の新たな発見 犬がただのペットではなく家族のようになった今日、一方で捨て犬は大きな社会問題となっている。特にパンデミック後、韓国では捨てられる犬の数が以前の6倍にも増加したというデータもある。本作への出演をきっかけに、捨てられた犬たちになにか手助けがしたいと思うようになったユ・ヨンソクは、実際リタという名の保護犬を新しい家族として迎え入れた。 「別の出演作でつながりがあった団体のSNSに掲載されていた写真を見たのがきっかけで、リタと出逢いました。自分は元々寂しさをあまり感じない人間で、1人の時間をとても楽しんでいました。でもリタと家族になってからは、リタがいないと早く会いたくなったり、"リタがいなくなってしまったらどうしよう"と不安に駆られたりします。リタに頼ることが多くなったんですね」 そして、こうした自身の経験を踏まえながら、これから捨て犬を迎えたいと思う人へこんなメッセージを送る。 「捨て犬たちは大小の傷や心の傷、健康上の問題もあって、これから飼おうとする人は不安もあるかもしれません。でも、心に傷を持つ人間もそうであるように、関心と愛を与えることで克服できるのではないでしょうか。もちろんそのためにはお互いに時間が必要です。傷が癒える時間を待つ心の余裕があればいくらでも養子にできますし、私のように幸せな時間を過ごせるようになるので、勇気を出してほしいと思います」 昨年俳優としてデビュー20周年を迎えるとともに、今年は40歳という節目の年となる。以前のファンミーティングでは、これまでのフィルモグラフィをファンがまとめて作ってくれたショートビデオが披露された。それを見たときのことを、「頑張ってきた自分をお疲れ様と褒めてあげたいですし、20年間の情熱をこれからも維持して精力的に活動しなければならないと思いました」と、今も感慨深く振り返る。これまで実に多彩な役柄を演じてきたユ・ヨンソクが、作品選びにおいて、最も大切に思っているポイントはなんだろうか。 「いつも自分がいままで見せたことのない新しい姿を見せられるように努力しています。それが俳優として持っている、私のビジョンの1つです。私が次はどんなジャンルの作品でどんな演技をするのか、ファンの方の好奇心をそそりたい気持ちもありますしね。褒められたキャラクターと似ているような役割ばかりを続けるというよりは、やったことのないキャラクターにチャレンジしていきたいです」 インタビューの最後、次回作の映画やドラマの予定を聞くと、「まだ多くはお伝えできないんですが」と笑顔を見せつつ、「最近お見せした(「運の悪い日」の)サイコパスとはまた違う姿でお目にかかれると思います」と明かした。ユ・ヨンソクの次なる"誰も見たことのない顔"に期待したい。 取材・文/荒井南