西田敏行さん、突然の別れも…完全一致する３年５カ月前に語った「幸せな命のたたみ方」
＜ニッカンスポーツ・コム／芸能番記者コラム＞ 西田敏行さんが17日、虚血性心疾患のため、都内の自宅で76歳で亡くなった。9日前の8日に都内のテレビ朝日で行われた映画「劇場版 ドクターX FINAL」（田村直己監督、12月6日公開）完成報告会見にも出席していた中での、突然の死だった。会見を取材しており、訃報が流れた直後は、にわかに信じられなかったが、元気がない…もっと言えば覇気が感じられなかった、西田さんの姿が脳裏から離れない。 【写真】妻と娘２人と４ショットの凍傷の残る西田敏行さん 西田さんは、12年10月期に同系でスタートし、21年10月期まで7シリーズにわたって放送されたドラマ「ドクターX～外科医・大門未知子～」で、主演の米倉涼子（49）が演じる孤高のフリーランスの外科医・大門未知子を目の敵にする、東帝大学病院元院長の蛭間重勝を演じた。米倉が今回の映画でシリーズを終了すると発表したことを受けて「蛭間重勝という役とサヨナラするのかなと思うと寂しいというか。好きな役のベスト5に入るんですよね。ずっと蛭間重勝でいたいなという気持ちがあったもんですからね…何となく、終わるのが嫌だなぁ、という感じはしていました」と唇を震わせた。 西田さんは、時に舞台あいさつ等の壇上で一見、感極まって泣いたような感じを醸し出しながら、ニヤッと笑うような一幕もあった。現場では、蛭間との別れを口にした西田さんが声を震わせたのも、いつもながらの盛り上げを狙った振る舞いの一環と受け止めていた人もいたが、記者はそうは思えなかった。登場から終了まで椅子に座っていた西田さんは伏し目がちながら、時に会見場の、その先を見つめるような…1人だけ浮世離れしたような、うつろな視線を送っていたように見えたからだ。 西田さんが亡くなったことを受けて、さまざまな報道がなされた。その中で、1980年（昭55）の日本テレビ系主演ドラマ「池中玄太80キロ」の主題歌で、50万枚超を売り上げた大ヒット曲「もしもピアノが弾けたなら」を軸とした、歌手活動にスポットを当てた報道も散見された。西田さんは同曲で、翌81年にNHK紅白歌合戦に初出場。故郷の福島県が東日本大震災で被災した11年には、秋元康氏が作詞した「あの街に生まれて」を歌唱し、歌手として21年ぶり4度目の紅白のステージに立った。 そんな西田さんが、10年ぶりにオリジナルで制作された新曲を歌ったタイミングも取材し、生歌を聞く機会にも恵まれた。西田さんは、21年の映画「いのちの停車場」（成島出監督）で、主演の吉永小百合（79）が演じた医師・白石咲和子が在宅医療を行う「まほろば診療所」院長の仙川徹を演じた上、タイトルと同名の応援歌を歌った。 応援歌は、吉永と親交が深いギタリスト村治佳織（46）が作曲したエンディングテーマに、シンガー・ソングライター小椋佳（80）が作詞した。東映会長の岡田裕介さんが、20年夏に村治に作曲をオファーし、デモテープを聞き、その素晴らしさに満足。「小椋佳さんに詩をお願いして、村治さんに曲をつけてもらって、歌は西田に歌わせてくれよ」と熱望したが、デモテープを聞いた5日後の20年11月18日に、急性大動脈解離のため急逝。そのため、東映の関係者が21年の年始に小椋に作詞を依頼し、曲は完成した。 レコーディングは、21年3月末に行われた。西田さんは、村治に「役者の歌ですから」と口にしつつ、左手に持ったつえで体を支え、マイクの前に立ち、語りかけるように歌った。公開後の同6月30日に都内で行われた「いのちの停車場」お客さま御礼記念舞台では、冒頭でスクリーンを背にして観客を前に生歌唱した。歌い始めは語りかけるような優しい声が、サビから曲のクライマックスに差しかかる頃には、スクリーンを突き破らんばかりの雄々しいそれに変わっていた。 歌唱後、場内に拍手が満ちあふれる中、西田さんは「今日、人様の前で初めて歌わせていただきました。レコーディングの時以来ですから。緊張しちゃって呼吸が困難になって、ドキドキしちゃいました」と言い、客席を笑わせた。当時は、まだコロナ禍の真っただ中で観客もマスクが欠かせない中、西田さんは「皆さんのマスク越しに輝く目が、ちょっと見えたので。うれしかったです。皆さん。命輝かせて来てくださって、ありがとうございます」と観客に感謝した。 このイベントに先立つ、21年5月22日に都内で行われた公開記念舞台あいさつの壇上で、西田さんは作品のテーマを踏まえ、自らの死生観を口にした。 「齢70を超えた人間の発言を述べたいと思います。本当に生ききる…見事に自分の死を、ちゃんと自然死の中で迎えられる方は本当に幸せだと思います」 「私も、幸せな死に方を何とか模索して、幸せな死に方を、どうやって自分の中で受け入れられるのか…。というと、吉永さんもおっしゃるとおり、生ききること、自分に与えられたことを一生懸命やっていくことしか、手がなさそうだと思っております」 自らの命のたたみ方の、理想の形についても言及した。 「死ぬということを、ごく日常的に常々、考える年齢になりましたので、どう命をたたむか…毎日、毎日、思っているというか、考えているという。夜、寝る前に必ず1回は明日、死んでいたらどうしようかなと考えます。そんな人生…何か、幸せだなと思います」 西田さんは亡くなった17日も仕事の予定があり、付き人が都内の自宅を訪ねたところベッドで冷たくなっている状態で倒れているところを発見された。午後0時20分ごろに119番通報があり、その場で死亡が確認された。18日には所属事務所が死因とともに「10月17日 午前6時頃 西田敏行が旅立ちました」と発表した。その死の形は、亡くなる3年5カ月前の「いのちの停車場」公開記念舞台あいさつで口にした「幸せな死に方」と一致している。【村上幸将】
