倉本聰、構想60年の映画『海の沈黙』の舞台挨拶でしみじみ「すごい人たちが集まってくれた」
映画『海の沈黙』(11月22日公開)の舞台挨拶付き先行上映が10月31日、TOHOシネマズ新宿にて開催され、本木雅弘、小泉今日子、中井貴一、石坂浩二、仲村トオル、菅野恵、佐野史郎、若松節朗監督、原案、脚本の倉本聰が登壇した。 【写真を見る】本木雅弘&小泉今日子が32年ぶりの共演!「美とは何か」をめぐるドラマと大人のラブストーリーが展開 「北の国から」「やすらぎの郷」など数々の名作を手がけきた倉本による、構想60年の渾身作は、贋作事件を機に、ある天才画家の秘めた思いと過去が明らかになる大人のラブストーリー。32年ぶりの共演となる本木と小泉が演じるのは元恋人同士。本木は新進気鋭の天才画家と呼ばれるも突然人々の前から姿を消した津山竜次を、小泉は竜次のかつての恋人、安奈を演じている。 本作は倉本が『海へ See you』(88)以来、実に36年ぶりに手がける映画。「やっと完成しました」と切り出した倉本は「演技者がすばらしい。これだけすごい人たちが集まってくれたことに感謝しております」と笑顔を見せ、「よく完成したなと思っております」とホッとした表情を浮かべると、会場から大きな拍手が湧き起こった。 倉本作品初参加の本木は「光栄なお誘いでしたが、現場では役者として、もがくばかりの日々でした」と撮影を振り返り、「ことあるごとに、OKなのか、ズレてやしないかと不安になっていました」と当時の心境を明かす。「倉本さんの作品というエベレストの頂を目指すにあたり、10代の時からの同志でもある小泉さんの胸を借りてという気持ちでした」と語った本木は、小泉との共演については「これまでお仕事を続けてきたことへのご褒美のようなありがたさがありました」と笑みを浮かべていた。 10代の頃からお互いを知る本木と小泉。変わったところも、変わっていないと思うところもあるとし、「(両方が)入り混じっています。15、6の頃の顔がそのまま重なっていくような感じです」と積み重ねてきた年月にしみじみ。「変わっていないっちゃ、変わっていないよね」と本木の顔を覗き込んだ小泉は「本木さんは本当に自己肯定力が弱い(笑)。15歳の頃からずっと自己肯定感が低すぎて、いつも悩んで、いつも反省している」と笑いながら指摘しつつも「だからああいう役が作れるんだろうなって」とニッコリ。続けて「私みたいにざっくりしているとできないから」と本木だからこその表現があるとしていた。また、小泉は自身の役について「久しぶりにヒロインらしいヒロイン」と微笑み、「割と自主性の強い、強い女性の役が多いけれど、この年でヒロインらしいヒロインを演じられてとても楽しかったです」と笑顔を振りまいていた。 中井が演じるのは竜次の後見人で贋作のシンジケートを操るスイケン。撮影中、あえて本木と距離をとっていた理由は「僕があがめ、仕えている関係性なので、多少距離を取って側にいるようにした」と関係性を踏まえた上だったからだという。初共演の中井から「避けられているような感じがあって……」と明かした本木は、食事に誘っていいものか、役者として距離をどう保つのかをいろいろと考えていたとし、「(距離の詰め方を)躊躇していたとお告げしたら、『役者同士がなあなあしてるのは大嫌いなんだよ!』って言われて(笑)。役として僕を見ていたと言われました」と撮影中のやりとりも明かしていた。 中井と同じく、本木とは初共演となる仲村が演じるのは贋作事件を追う美術探偵の清家。「本物と偽物を見分ける知識と眼力を持つ男を演じましたが、僕自身は昔、インドで偽物のシルクのスカーフを大量に買ってしまったことがあります」とニヤリ。さらにそれは「この人なら信じられる!」という人のすすめで買ったとも告白。「素材も人を見る目も両方ともない僕が、もし(映画のなかで)美術探偵に見えるとしたら、すべて若松監督のおかげです!」と過去の失敗を明かし笑わせつつ、若松監督に感謝していた。 本木は倉本作品について「セリフの語尾まで一字一句その通りに読まなくてはいけない」と伝え聞いていたことを明かしたが、倉本と話す機会があった際に「そういう伝説がありますとお伺いしたら、『噂が一人歩きしただけ』と言われ、『解釈がずれていなければ自分のおやりになりたいように』とも言っていただきました」と明かす。さらに若松監督が「倉本さんはコワモテ。でも、今回は優しい倉本さんでした」とニヤニヤしながら続くと、倉本は首を傾げながら「誤解されていますね。こんなに優しい人間はいないのに(笑)」と返し、笑いを誘っていた。 イベントでは作品にちなみ「30年数年ぶりに再会した元恋人に会ったら、どんな言葉をかけるか」というお題に答えるコーナーも。本木は「あー!……誰?」、小泉は「元気だった?」と回答。中井は「ゆっくり目を逸らすか、ハグするか」などと想像するなか、トリで倉本が美しいエピソードを披露。「芸者さんから旅館の女将になった方に3、40年ぶりぐらいに会った時に両手をついて『おはるかぶりでございました』と言われたのは痺れましたね」とうっとり。小泉も「すてきな言葉!」と反応し、イベントの最後を美しく締めくくっていた。 取材・文/タナカシノブ