AIが「標的」とマークすれば、人間はそれに従って排除するだけ─イスラエル軍のAIはいかに戦争の形を変え、ガザに前代未聞の巻き添え被害をもたらしたか
2023年10月7日に開始したイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への空爆は、前代未聞の規模の民間人の巻き添え被害が発生している。その背景には、最新鋭のAIの利用という、これまでの戦争とは完全に異なるメソッドを今回イスラエルが採用したことにあった。 【画像】イスラエルの空爆を受けるガザ地区の市街 イスラエル・パレスチナ合同独立系メディア「+972マガジン」とイスラエルの独立系メディア「ローカル・コール」が、イスラエルの軍関係者の証言をもとに、AIが戦争の形をどのように変えたかを検証する。(この記事は第1回/全5回) 2021年、『人間とマシンのチーム:私たちの世界に革命をもたらす人間と人工知能のシナジーをいかに生み出すか』(未邦訳)と題する英語の本が刊行された。著者はY・S准将というペンネームだが、イスラエルのエリートの諜報機関、8200部隊を率いる人物であることが確認されている。 著書で彼は、戦火のなかで軍事攻撃の「標的」を何千という規模でマークするため、大量のデータをすばやく処理する特別なマシンの開発を提唱した。そのようなテクノロジーがあれば、「新たな標的の割り出しと、それを承認する意思決定の両方における人間のボトルネック」を解消できるだろうと、彼は書いている。 そのようなマシンは、実際に存在すると判明している。イスラエルとパレスチナ合同の独立系メディア「+972マガジン」とイスラエルの独立系ニュースメデイア「ローカル・コール」の調査によって、イスラエル軍が「ラベンダー」という人工知能をベースにしたプログラムを開発したことがわかった。 現在ガザ地区でおこなわれている戦争の間に軍に所属し、殺害対象を設定するためのAIの利用に直接関わったイスラエルの諜報機関の職員6人の証言によると、ラベンダーは、特にこの戦争の初期にあった前例のない規模の空爆において、重要な役割を果たしたという。軍事作戦におけるAIの影響力は、機械の出力結果が「まるで人間の決定のように」扱われるくらい大きかった。 情報筋は、戦争の最初の数週間、軍はほぼ完全にラベンダーに頼りきりだったと証言した。そしてラベンダーは、3万7000人のパレスチナ人を戦闘員の疑いがあると判定し、その人たちの家を含めて空爆の候補とした。 戦争の初期、軍は将校に、ラベンダーの殺害リストをそのまま受け入れてよいと一様に認めており、マシンの判定の理由や、判定に使われた生のデータをしっかりとチェックするようには求めなかった。 さらに、イスラエル軍は組織的に、これらの標的が軍事活動をしているときよりも、自宅にいるときを狙った。通常は、家族全員がその場にいる夜間だ。 その結果、特に戦争初期に、AIのプログラムの決定により、大半は戦闘に関与していない女性や子供である何千人というパレスチナの民間人が、イスラエルの空爆で殺害されたのだ。 以下の記事では、イスラエル軍の高度に自動化された標的生成が、ガザ戦争の初期にどのようにおこなわれたかを順番に追っていく。