山田裕貴 メン・オブ・ザ・イヤー・ブレイクスルー・アクター賞──葛藤を抱えながら、俳優道をストイックに進む
TBS金曜ドラマ『ペンディングトレイン–8時23分、明日 君と』をはじめ、NHK大河ドラマ『どうする家康』、映画『BLUE GIANT』、『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編』、『キングダム 運命の炎』、『ゴジラ -1.0』など、出演作が絶えなかった2023年。作品ごとに異なる魅力を放った山田裕貴に、ブレイクスルー・アクター賞を贈る。 【写真を見る】ハイブランドを着こなす、山田裕貴のカッコいい写真をもっと見る!
TVドラマ『女神の教室~リーガル青春白書~』、『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』、『特捜9 season6』、NHK大河ドラマ『どうする家康』の放送、そして、映画『BLUE GIANT』、『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編』、『キングダム 運命の炎』、『ゴジラ -1.0』の劇場公開と、2023年も八面六臂の活躍を見せた俳優、山田裕貴。だがその華々しい輝きの陰で、彼は人知れず苦悩していた。 「今年はドラマの掛け持ちなどもあり、体力的にとにかくしんどかったです。正直、『こういった想いを叶えたい』とか『夢のために』といった大きなことは考えられず、必死にその日1日を乗り越えてきた感覚があります。作品数だけだったら、今年より多い年もありました。でも、役の大きさや出番の数が中心に寄ってきたぶん、観てくださる人も増えたでしょうし、自分自身の芝居について悩んでしまう時間も増えました」 松本潤が徳川家康役で主演する『どうする家康』では、戦国最強武将の一人と称される本多忠勝を熱演。エネルギッシュな芝居で存在感を放っていたが、当の本人はプレッシャーに苛まれていたという。 「先輩の俳優さんたちの演じる役がどんどん退場していくなか、僕は忠勝を63歳まで演じなければなりませんでした。その過程で、33歳の自分には凄みや重みが足りていないと感じてしまい、ずっと苦しかったです。もちろん現場は楽しいし、やりがいもあるし、常に全力で芝居をしている。でも、忠勝が年を重ねるにつれて、『この芝居で本当に大丈夫なのか?』と、そればかり考えてしまって。そうすると、“笑う”という芝居ひとつに対しても、例えば『僕が60歳になった時、本当にこういう顔をするのかな……』と迷いが出てしまったんです」 自分の演技に対しての「迷い」は視野が広がっている証拠でもあり、さらなる成長の兆しとも言える。しかしながら、渦中にいる本人からすれば安穏としてはいられない。日々必死に芝居をするなかで、山田は次のステップに進むきっかけを模索していた。 「“変わらないでいる”ことも大事ですけど、今は変わらないとダメだとひたすら思っています。自分だけの武器を持った唯一無二の俳優になるためにはどうしたらいいのか──。例えば、子を持ち親になるといった人生経験をすればいいのか、俳優として何か大きなことを成し遂げればいいのか……、この苦しさを抜け出す方法はまだわかりません」 より精度が高く、説得力のある演技を目指す。目標を高くに見据えるがゆえ、自分への評価が厳しくなってしまう生みの苦しみ。山田の表現者としての信念が垣間見えるエピソードであり、その現在進行形の“もがき”から目を背けず、ごまかすことなく言語化する姿勢には、大器の資質を感じずにはいられない。同時に彼は、活躍のフィールドが拡大していくなかで、自分自身の「もっと出たい」という欲と、作品の一員として求められる「役割」の狭間でも葛藤していた。 「“誰かのために動くこと”は必要なのですが、自分の芝居に対して『今の俺、面白くないな』と思ってしまう。自分の自由度が失われる作品だと、僕は己を殺してしまって本来の力を発揮できないんです。そこを無視して自分だけが目立てばいいという考え方もあるでしょうけれど、バランスを崩して作品にハマらなかったら意味がない。ただ、先輩たちの姿を見ていると、“誰の作品か”というのを常に考えて行動し、そのうえで自分の持ち味を発揮している方も多くいらっしゃいます。それは単純にすごいなと思いました。今後、自分がどうしていくかは目下の課題です」 2023年4月末に『GQ JAPAN』ウェブに掲載された『東京リベンジャーズ2』の取材時には、演じたドラケンを“大きな壁”だと評していた。当時は「“僕はやっぱり『東リベ』のような強いコンテンツに乗っからないと観てもらえない俳優なのかな”という悩みを抱えることもある」と吐露していたが、山田は自身に付いて回る「イメージ」とも日夜格闘している。 「『東京リベンジャーズ』第1作の時に、SNSのフォロワーが2倍くらいに増えて、これは非常に危ないな、と感じました。ドラケンとして自分を知ってくださった方が半数いるとしたら、僕がドラケンじゃなくなった時にどうなってしまうんだろう、他の作品に出ている時にも同じように気持ちを維持してもらえるとは限らない、と。これは自分のところに舞い込んだラッキー でしかなく、あんまり自分の力だと思わないようにしようと、ある種、気持ちに蓋をして受け止めていたところはあります。 もちろん、ドラケン役に巡り合えたことで今の自分があるわけですし、作品に対してもすごく感謝しています。だからこそ難しいのですが、意識しすぎないようにしないと勘違いしてしまう、という危機感は常に持っています。 結局、俳優自身に演技の幅があっても、“観たい”と思わせられる力を持っていなければ届かない。コンテンツに依存せず、どうやって観てもらえる存在になっていくか。そうした意味では、最近の僕は、今までにない表現やスキルを獲得してレベルアップするために動いているので、“楽しむ”とはまた違ったモードでいるとも感じます」 ここまで話して、山田は「自分がこういうふうに思っていることを、知らない方も多いと思います。パブリックイメージとは違うでしょうから」とつぶやいた。元気で明るいキャラクターを求められる機会も多いし、自分も頑張ってしまうから、と。ただ、表現の高みを目指して試行錯誤を続ける内省的な自分を決して卑下はしていない。 「僕はこれでいいと思っています。自分の芝居をつまらなく感じてしまう時期は今までにも2、3回ありましたし、その都度乗り越えてきました。僕は自分に自信がないわけではなく、あくまで自分の表現の研究をしているだけなんです。きっと自分は、淡々と“普通”に時間が流れていくのが嫌なんでしょうね。頑張った、色々な作品に出られた、だけじゃ満足できないし、みんなが期待する“いい芝居”以上を常に出し続けたい。だからひょっとしたら、『超えた』と思える日が来るまで、いつまで経っても『自分の芝居に納得がいかない』と言っているのかもしれません」 ■自分が自分でいられる場所 そんな山田にとって、今年、大きな財産となったのが、ドラマ『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』だ。「主演だからではなく、この作品だからやって良かった、という想いが強い」と強調する。 「僕たちの仕事は、もしかしたら他の第一希望の方がいて、断られたから自分のところに話が来ている場合も往々にしてあります。そんななか、『絶対に自分にやってほしいと思っているんだな』と率直に感じられたのがこの作品でした。これまでに100本くらいドラマに出演してきましたが、こんなにも高い熱量を感じられるプロデューサーさんに出会えることはそんなに多くありません。『このドラマで日本が変わってほしい』くらいの意志を持って企画されていましたし、作品に込められたメッセージは僕自身も世の中に伝えたいと思っているものばかりでした。 撮影前に2回ほど打ち合わせがあったのですが、その際にお話しした『自分は世の中に対してこう思っている』、『これを伝えたい』を、すべて脚本に盛り込んでくれるような現場だったんです。お芝居の中でも個人の感情をどんどん出していいと言っていただけましたし、ものすごくありがたかったです」 自分が自分でいられて、そのことに価値を見出してくれる現場。山田は、チームメンバーとの出会いに改めて感謝を述べる。 「共演の赤楚衛二くん、上白石萌歌さんとはたくさん話し合いながら作っていけましたし、脚本家の金子ありささんからは撮影終わりのタイミングでお手紙をいただき、本当に嬉しい言葉をかけてもらいました。スタッフさんの中には、『自分がやったドラマの中で一番しんどいです』と笑いながら言っている方もいて、確かに大変な時間は多かったのですが、みんなで楽しんで、チーム一丸となって乗り越えた感じがある。 僕にとっては、自分が言いたい言葉を言わせてもらっているぶん、どこか周りの人を付き合わせている感覚があって、だからこそ自分がしっかりしなきゃと入り込むことができましたし、一生懸命にもなれた。すごく大きな出会いでしたし、こうして本当に力を出せる作品を作らなければと、今後の指標にもなりました」 冒頭で語っていたように、忙殺ともいえる時期を乗り切った山田。今はようやく、“息抜き”だという趣味のゲームに興じる時間も確保できたという。そんな彼に、最後に「変えたくないこと」を聞くと、「いい俳優がどんなものかはわからないけれど、観てくださる方に『いい俳優だな』と思われたい、というのは変わりません。ずっとそう言われていたいです」と、なんとも“らしい”答えが返ってきた。 【お知らせ】 撮影の様子をおさめたショートムービーを、Instagramに近日投稿予定! @gqjapan をフォローしてお待ち下さい。お楽しみに! GQ JAPAN公式Instagramアカウント: https://www.instagram.com/gqjapan/ 山田裕貴 1990年、愛知県生まれ。2011年『海賊戦隊ゴー カイジャー』で俳優デビュー。22年、エランドール賞新人賞を受賞。映画やドラマで活躍するほか、ラジオ「山田裕貴のオールナイトニッポンX」も好評で、24年 1月13日には横浜アリーナ でのイベントが開催予定。同年1月スタートの月9ドラマ『君が心をくれたから』では、永野芽郁演じる主人公が愛する男性、朝野太陽を演じる。 PHOTOGRAPHS BY CHIKASHI SUZUKI STYLED BY AKIYOSHI MORITA HAIR STYLED & MAKE-UP BY JUNKO KOBAYASHI WORDS BY SYO EDITED BY FUMI YOKOYAMA @GQ