ホームは飯坂温泉!eスポーツチーム・FUKUSHIMA IBUSHIGINのオーナーが目指す「福島から世界へ」の意味
福島県福島市の飯坂温泉は、東北を代表する温泉地の一つ。そこに活動拠点を構えるeスポーツチームが「FUKUSHIMA IBUSHIGIN」だ。8月にスタートしたカプコン主催のストリートファイター公式チームリーグ「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2024(略称:SFL)」にチームとして初参戦。最終戦となる10節を2024年11月19日に控え、チームはプレイオフ進出を賭けた“勝負の一戦”に臨む。 福島・飯坂温泉に構えるゲーミングスペース IBUSHIGIN ■Division S 順位(第9節終了時点・残り1節) 1位(225ポイント):Good 8 Squad 2位(225ポイント):Saishunkan Sol 熊本 3位(215ポイント):FUKUSHIMA IBUSHIGIN ◆「プレイオフ」進出ボーダーライン◆ 4位(200ポイント):忍ism Gaming 5位(135ポイント):名古屋NTPOJA 6位(115ポイント): DetonatioN FocusMe そのかたわら、飯坂温泉街にゲーミングスペース「IBUSHIGIN」を5月にオープンし、福島をホームとする地域色をより強く打ち出している。一見縁遠いように思える温泉とeスポーツが結びついたきっかけや、チームが掲げるコンセプト「福島から世界へ」の思いについて、FUKUSHIMA IBUSHIGINを運営する株式会社アスピロンド代表取締役の拝田遼平さんに話を聞いた。 ■「福島が好きだったから」ゲーミングチームを東北に置いたワケ ――「FUKUSHIMA IBUSHIGIN」設立の経緯を教えてください。 【拝田遼平】もともとは『レインボーシックス シージ』というFPSゲームのクランだったんです。平仮名と漢字で“いぶし銀”。別の人間が作ったクランで、一緒にやらないかと誘われたところがはじまりで。 その当時は“eスポーツ”というものがあるなんて知らなかったんですけど、仲間内で「eスポーツはどうやらスポンサーを付けてゲーム活動したりしてるらしいぞ」「みんないい大人なんだから、ただゲームクランやってるだけじゃ面白くないよね」という話しになって。その時、自分が働いていた会社の役員に「ちょっとなら金出すよ」と言われたのが現在に至るきっかけですね。 ――当初から福島が拠点だったのでしょうか? 【拝田遼平】もともと「いぶし銀」も東北のメンバーが多かったので、当初から東北には焦点をあてていて、岩手のイベントに参加したりはしていました。私はずっと埼玉で育ったんですが、親父の実家は福島で、自分も東日本大震災の後に猪苗代の中ノ沢温泉の旅館で住み込みに働いていたことがあって。その時の経験というか、「温泉地っていいな」という思い出があったんです。なのでいつかは福島に持っていきたいなとはずっと思っていて、法人化の際に、どうせなら福島で会社にしようと。福島が好きだったから、というのが一番の理由ですね。 ――福島で活動をはじめてからの気付きや変化はありましたか? 【拝田遼平】地元の方にはすごくよくしてもらっています。ただ、流行が届くのに2、3年くらいタイムラグがあるんですね。それこそ福島で会社を立ち上げた当初は全然どこにも相手にしてもらえなかったですし、誰と話しても「eスポーツ?何のこっちゃ」みたいな状態でスポンサーもとれずで、その時は大分しんどかったです。 ――現在はかなり浸透してきているように感じます。 【拝田遼平】いろんなことをしたんですよ。商工会議所に入ってちょっとお話しさせてもらったりとか、青年会議所も入ってみたり。ただ、eスポーツやゲーミングチームみたいなものにアンテナ張っている会社が全然ないみたいなところからのスタートだったので。 ただ、今はみなさんの方が頑張って理解していただけるようになって、自分なんかより詳しい社長さんが出てきたり、IBUSHIGINの大ファンになってくれて、私よりSNS見てくれてるなって温泉旅館の社長さんがいたり。そういう意味では、一度入り込んでさえしまえばすごい温かいんだなというのは感じます。 ■「eスポーツでも人間の行き来を」飯坂温泉から世界への発信 ――「福島県から世界に」を掲げて活動されていますが、これにはどんな意味が込められているのでしょうか? 【拝田遼平】これは選手たちが世界で活躍するというのはもちろん、世界に向けて福島の情報を発信していきたいというところがあります。たとえば県内、福岡市内だけを見ても結構面白いところがいっぱいあって。それを情報発信して、インバウンドで有効活用してほしいですし。また、ストリートファイターやっている人だったら翔(FUKUSHIMA IBUSHIGIN所属のプロゲーマー)は世界的に知られていると思うんですけど、その翔が「福島の桃おいしいんだよ」って発信すれば、まだ放射能にネガティブなイメージを持っているかもしれない外国の方に、少しでも払拭のきっかけになればいいとも思います。 選手が活躍してそこから福島を知ってもらうきっかけにというのと同時に、eスポーツ以外でもYouTuberみたいな働きかけだったりやりたいことはいっぱいあるんですが、リソースの部分でまだまだできていないというのが現状です。 ――同時に、飯坂温泉にゲーミングスペースを開設したように、地域へ根ざす動きも目立ちます。 【拝田遼平】これは何年も前からずっと思っていた持論なんですが、野球やサッカーって地元が応援していて、それこそ行政や国が絡んだりするのって、ホーム・アウェイって人間が行き来するからじゃないですか。だからeスポーツもリアルに人が行き来する形になってくるのが自然だよなと。まずは小さくてもいいから、FUKUSHIMA IBUSHIGINが好きな人がちょっと立ち寄れるような拠点が必要だとずっと思っていたんです。ホーム施設は(福島・飯坂温泉の)ここですよ、と。 ――今後そうした動きの拡大や、地域との連携についてのお考えはありますか? 【拝田遼平】今後で言うと、温泉地という場所に限って見れば廃旅館・廃ホテルはいっぱいあって、なかなか活用しきれない場所も多いんです。それを、今度はゲームをしに来て泊まれる場所だとか、ゲームの練習部屋がいくつもある、みたいに活用した施設をいつかやれたらなと思っています。 地元の連携というのは今のところ特にはなくて、ふらっと遊びにきてVRゲームをやったり、時間帯によっては少しお酒を飲んでゆったりしたりぐらいですが(笑)。ただ、ゲーミングスペースがオープンした際には福島市長も来てくださいましたし、オープン以降も議員の方が訪問されたりと、喜んで気にかけてくれてはいます。 ――eスポーツに注目が集まる中で、eスポーツの今後という部分ではどのように捉えていますか? 【拝田遼平】eスポーツワールドカップだったりオリンピック eスポーツゲームズだったり、前向きな話題が増えていて、企業や行政の方が喜びやすい内容なんじゃないかなと思うんですね。そこから、企業からIBUSHIGINだったり、異なる企業間だったり、イベントだったりにもうちょっとお金が流れるようになって、そうすると広告料や選手の給料ももう少しよくなってくるのかなと。 ストリートファイターリーグはここ数年で盛り上がってきていますが、他のタイトルでは、「Apex Legends」はプロリーグに出ても1円にもならなかったりという時代もあって。だから、eスポーツの大きな動きでそういった事情が健全化されて、色んなタイトルにお金がもうちょっと入ってくるようになったらいいですし、それが少し近づいて現実的になってきたのかなという風には思ってます。 ――この数年は特に格ゲーで盛り上がりが期待ができると思います。一方、そうしたバブル的人気が仮に弾けてしまった場合の展望は? 【拝田遼平】チームとしては、一つのタイトルに依存しすぎないというのは必須かなと思います。どうしてもゲームは流行り廃りがあるものなので、それこそ今なら「2XKO」(註:ライアットゲームズからリリース予定の格闘ゲーム)あたりもにらんでいますし。とはいえ、もちろん人気タイトルはずっと流行ってくれた方がいいですし、ストリートファイターは「V」時代も息長くリーグが続いてきていたので、そこはそんなに悲観はしていないです。 選手に求めるとすれば、ストリートファイターなら、今のバブルのうちに自分が盤石になるような取り組みはそれぞれした方がいいなと思っています。翔は大分人気になりましたけど、ササモ、cosa、ヤナイ、それぞれ強いだけじゃなくていろんな魅力があって、でもそこってまだ全然知られていないところなのかなと思うので。翔も配信視聴者が一桁という時代から、今は200人、300人当たり前に見てくれるようになって、そうすると人間性を好きになってくれる人もいっぱいいると思いますし、仮にストリーマーになったとしても食っていけるんじゃないかってところは選手それぞれが今のうちに目指してほしいかなと思います。もちろん、プロは強いだけで食っていける環境になっていくといいなと思うので、あくまで今現在の考えです。 ■「嫌な奴がいない」FUKUSHIMA IBUSHIGINの魅力とは ――ここからはチームのお話を聞かせてください。選手の育成はどのように取り組んでいますか? 【拝田遼平】勝手に育つというか、あまり口出しはしていないです。一時期は「こういう練習の仕方をした方がいいんじゃない?」という提案をしたりもしたんですが、それを選手たちが実践しているかと言われたらそうでもなくやっぱりみんな自立していて、どの部門も自主的に強くなっている感じはします。 ――チーム全体の動きではクラウドファンディングのチャレンジもありました。取り組んだ中での気付きや失敗はありますか? 【拝田遼平】ゲーミングスペースの経費が月数十万かかってくる中で、売上はほぼ立たないと思ってやっているので、その維持費を協力してほしいという体ではじめたクラウドファンディングでした。「どうせならやってみるか」という感じだったのを思うと、それで数か月分の運転資金になったのはすごく助かりました。ただ、リターンにアクリルキーホルダーやユニフォーム、木札を用意したんですけれど、もっと色んなグッズのパターンを用意すればよかったなというのは失敗でしたね。 ――FUKUSHIMA IBUSHIGINが気になった人にチームの「ここを見てほしい」というポイントはありますか? 【拝田遼平】どこなんですかね(笑)。でも、嫌な奴がいないチームだと思うんですよね。どの部門もみんな模範的な選手が多いチームだと思っていて、そこはおすすめポイントですかね。 ――SFLを見ていても雰囲気のよさは本当に感じます。 【拝田遼平】そこはこだわったところというか、ずっとSFLに出たい思いで、メンバーの入れ替わりはあってもストリートファイター部門は4人を維持してきていたので。他のチームのよう傭兵を入れてというスタイルではないので仲良くはなりやすい。もちろん喧嘩もしやすかったりはするでしょうけど、でもそれはずっと目指してきていた形ではあるのでよかったなと。 ――最後に、SFL初参戦となるFUKUSHIMA IBUSHIGINの現在について感想をお願いします。 【拝田遼平】もっと勝てるチームだと思ったのが正直なところです。優勝まで見据えたら1位通過すべきだろうと思っていましたが、まずはプレイオフ進出です。とはいえ、チームとして初参加、翔に至っては選手としてSFL初参加というところで、現在の状況は自慢していいんじゃないかという風に思っています。 ■【最終節】Division S・第10節 2024年11月19日(火)18時40分よりYouTubeにて放送 (C)CAPCOM
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