岸田総理の解散戦略を占う「電撃訪朝」「茂木潰し」「静岡県知事選」
4月28日に行われた衆議院の東京15区、島根1区、長崎3区の補欠選挙。自民党は唯一、独自候補を立てた島根1区でも立憲民主党の亀井亜紀子に大差で敗れ、東京、長崎の不戦敗も含めて事実上3敗を喫した。竹下登元総理や“参院のドン”とよばれた青木幹雄元自民党参院会長らが輩出した島根県では、1996年の小選挙区制度導入以来、自民党以外の候補が衆院選で勝利したのは今回が初めてのことだった。 しかも、亀井亜紀子の得票8万2691票に対し、自民の錦織功政が獲得した票は5万7897票。NHKはじめテレビ各社が、投票締め切り直後の午後8時過ぎに相次いで「亀井当選確実」を報じるほどの大敗であった。自民党総裁である岸田文雄総理は大きなダメージを負うことになった。 岸田「自民党の政治資金の問題が大きく重く足を引っ張ったことについては、候補者に対しても、地元で応援して頂いた方々に対しても申し訳なく思っている」(4月30日) 歴史的大敗から2日後、岸田総理は疲れ切った表情で、自民党の派閥裏金事件が大敗の要因であることを認めた。 この報道陣とのやりとりを見た自民党関係者の1人は「岸田さん本当に参っているな。生気が失せているよ」とこぼした。また別の自民党幹部は「岸田さんは解散なんてもう考えないだろう」と述べ、「岸田による衆院の解散総選挙はできない」という観測が与党内に一気に広がった。
島根でも繰り返された総理の「独り決め」
確かに岩盤の選挙区=島根で大敗した岸田は意気消沈というのがいまの姿であろう。また自民党の執行部でも茂木敏充幹事長のように距離を置く勢力も多数存在する中で、岸田が解散総選挙に打って出るのは至難の業であることは間違いない。 しかし、岸田と長く付き合ってきた自民党関係者はまだ警戒を緩めない。 自民関係者「あの人は他人の言うことを聞かない。大切なことは全て自分1人で決めようとする。いまは大人しくしていても何かの拍子で風向きが変わることだってある」 この選挙期間中も岸田の“独り決め”を印象づける出来事があった。 投票日2日前の26日(金)午後。自民党本部は突如、慌ただしい空気に包まれた。岸田が選挙戦最終日の27日(土)に自民候補の錦織を応援するため「島根入りしたい」と言い出したのだ。すでにこの時点で自民党は島根の負けを覚悟していた。その島根に1度ならず2度も現職の総理が入って負けたら(岸田は21日にも島根入りしている)「岸田が負けた」という印象が強くなることから、党幹部の多くは島根入りには反対だった。 また総理が応援に入るとなれば、演説会場に党員や地元関係者の動員をかけなければならない。地元警察も警備体制を厳重に組む。去年4月の補選では岸田が和歌山に応援に入った際、20代の男が殺傷能力のある爆発物を投下する襲撃事件が発生したことから、警察も警備体制を強化している。岸田の“思いつき”ともとれる島根行きに多くの人が振り回される格好となった。 自民関係者「岸田さんの性格はまさに今回の島根行きが物語っている。周りが反対しても自分が“こうだ”と思えば実行する。派閥の解消の時と同じ。だから解散だってわからない」 そもそもなぜ岸田が解散にこだわるのか改めて整理してみたい。 岸田は9月に自民党総裁任期を迎える。つまり総裁選挙を行わなければならない。一方、衆議院議員の任期は来年の10月であるから、もし岸田がこの通常国会(会期末は6月23日)の会期中に解散を決断しなければ、総裁選挙後に解散総選挙の見通しが一気に強まる。 その場合、総裁選で候補者に一番求められるのは「総選挙に勝てる候補」ということになる。保守王国島根に2度も応援に入ったにもかかわらず、結果は立憲の候補に約2万5000票の差をつけられ大敗した岸田に、多くの所属議員・党員がそっぽを向くのは必至だ。 与党関係者「岸田さんは座して死を待つようなことはしない。きっと局面打開を図ってくるだろう。場合によったら北朝鮮訪問だってやりかねない」 去年3月、岸田はヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と首脳会談を行うためウクライナへの極秘訪問を敢行し、支持率を回復させた。今回も岸田がかねてから意欲を示す北朝鮮訪問など、世間の耳目を集めるサプライズを演出する可能性もあり得るというのだ。 外務省幹部は、複数の拉致被害者の帰還など目に見える成果の目算が立たない限り、岸田の電撃訪朝は「あり得ない」と完全否定している。しかし、岸田本人は「日朝間の諸懸案を解決し、ともに新しい時代を切り開いていく観点からの私の決意を先方に伝え続けていきたい」と、訪朝=金正恩総書記との首脳会談への意欲を繰り返しアピール。周辺も「総理は本気。訪朝についてはいろいろ(水面下で)動いている」と思わせぶりだ。岸田は今月下旬にソウルで日本・中国・韓国の首脳会談(日中韓サミット)への参加を予定している。その前後に訪朝に向けた動きが表面化するのではと、政界は岸田の動きを注視している。