【トランプ圧勝後の国際情勢を石平氏が分析】アメリカの“中国潰し”で習近平政権が“媚日”を図る可能性 日本に求められるのは“戦略的傍観”
先のアメリカ大統領選では、事前の“大接戦”との予想を裏切ってトランプ氏が大勝した。新聞やテレビでさえ読み違えた政治力学。今後の国際情勢はどう動くのか? トランプ氏の勝利を予想していた評論家は石平氏が、「中国」をキーワードに今後の世界情勢を読み解く。 【写真】演説台で笑うドナルド・トランプ氏
* * * トランプ氏は「すべての中国商品に60%の関税をかける」と公言してきた。中国経済は国内の消費不振が続き、不動産バブルも崩壊したことで疲弊している。今や頼みの綱は対外輸出だが、最大の輸出先であるアメリカでトランプ氏の公約が実現すれば、アメリカ市場において“安さが勝負”の中国商品は大打撃を受ける。 トランプ政権が実際に始動するのは2か月先だが、すでに政治的圧力をかけている。副大統領に就任するJ・D・バンス氏は、「中国こそ最大の脅威」と言い切った人物。外交を担う国務長官にも対中強硬派のマルコ・ルビオ氏を起用した。この陣容を見るともはや「中国潰し政権」とさえ言える。 1980年代にロナルド・レーガン大統領は、ソ連を経済的に追い込み、崩壊させたことで歴史に名を残した。トランプ氏はもう78歳。富も権力も頂点を極め、残された夢は「歴史に名を残す」ことだけ。次の大統領任期の4年間で、あらゆる面で習近平政権にプレッシャーをかけ、本気で叩き潰しにかかるだろう。 そうして米中関係が緊迫し、そのなかで日米同盟がどう機能するかに関心が集まっているが、日本にとって重要なのはむしろ日中関係の戦略だ。
伝統的に中国の政策は、アメリカとの関係が悪くなると日本に接近する傾向がある。1989年の天安門事件のあと、アメリカを中心とする西側諸国に制裁を受け、国際社会で孤立した中国は日本にすり寄った。1992年には江沢民・総書記が来日して笑みを振りまき、半年後の天皇陛下訪中を実現するための布石が打たれた。そして天皇陛下の訪中をきっかけに、中国は国際社会に復帰。アメリカと喧嘩した時に、日本を利用してきた歴史がある。 これから先も、習近平政権が日本に接近を図る可能性があるのだ。それは経済面などでのメリットがある話かもしれないが、注意も必要になる。中国の“媚日”を積極的に受け入れてしまえば、トランプ氏の虎の尾を踏むことにもなりかねないからだ。 激化する米中対立の狭間で、日本には安定した政権と強いリーダーが求められるが、現実はそれとは程遠い。少数与党の石破政権はいつ退陣に追い込まれるか分からない状況なので、米中両国からもまともに相手にされない懸念もある。利用されることはあっても、国際政治のなかでのキープレイヤーにはなれないだろう。 つまり、石破氏は国際社会で存在感を出したいと思っても、余計なアクションは起こさないほうがいい。米中関係を傍観しておくことが今の日本にとって最も戦略的な外交と言えるのではないか。 【プロフィール】 石平(せき・へい)/1962年、中華人民共和国四川省成都市生まれ。評論家。北京大学哲学部卒業、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。2014年に『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』で第23回山本七平賞を受賞した。最新著書は、『中国大恐慌の闇』。 ※週刊ポスト2024年11月29日号
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