【社説】新たな対米関係 外交戦略の自律性高めよ
中国やロシアが覇権主義的な動きを強めている。世界秩序を守る必要性は増しており、米国のリーダーシップを弱めてはならない。関係国とも連携した日本の外交戦略が問われる。 米大統領選で、共和党のトランプ前大統領が返り咲きを決めた。「米国第一」を掲げるトランプ氏は1期目の政権下、国際協調路線を転換させ日本などの同盟国に対しても厳しい姿勢を示した。 日本はその後、民主党バイデン政権と安全保障や経済、人道分野などで相互依存を深めたが、転換を迫られかねない。トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)からの脱退もちらつかせている。 石破茂首相は先週トランプ氏と電話で会談し、日米同盟をより高い次元に引き上げることで一致した。早期の対面会談に向け調整中という。 首相はトランプ氏と面識がない。関係構築が急務だ。トランプ氏が、政権基盤の弱い首相とどこまで本気で向き合うかは見通せない。 トランプ氏は米国だけが対日防衛義務を負う日米安保条約は「不公平」と批判してきた。防衛費増額や、在日米軍駐留経費の日本側負担引き上げを過去に求めており、今回もその可能性がある。 在日米軍は日本のためだけでなく、東アジアにおける米国の安保上、重要な役割を担っている。首相は粘り強く説明しなくてはならない。日米韓による安保の協力関係も深めていきたい。中国や北朝鮮に対する抑止力となる。 経済安保の体制も重要だ。1期目のトランプ政権が離脱した環太平洋連携協定(TPP)に代わり、バイデン政権が創設したインド太平洋経済枠組み(IPEF)を維持する必要がある。サプライチェーン(供給網)強化に有効だと理解してもらわなければならない。 トランプ氏が反対している日本製鉄による米鉄鋼大手の買収問題も気がかりだ。 全ての国に高関税を課す方針は、米国民が割高の輸入品を買わされることになる。日米双方に資する道を根気強く探ってほしい。 トランプ氏の初当選時、安倍晋三首相は初めて会談した外国首脳となり蜜月関係を築いた。一方で、安倍政権はトランプ氏の求めに応じて高価な戦闘機を大量購入するなど対米配慮が目立った。米国を国際協調路線には引き戻せなかった。 2期目のトランプ政権で、最大の懸念はロシアが侵攻したウクライナへの支援だ。最大援助国の米国が停止や縮小に踏み切れば世界秩序は危機に立つ。日本は欧州主要国などと連携し、米国への働きかけを強めねばならない。 従来の日本外交は、米国の世界戦略に合わせる色合いが濃かった。自律性を高め、核軍縮などについても率直にものが言える対米関係をつくるべきだ。トランプ氏の再登板をその契機としたい。
西日本新聞