中国車を締め出す欧州! しかし「イタリア」は工場誘致に積極的、その理由とは
EUの警戒感
欧州連合(EU)が、中国EVメーカーに対する警戒感を強めているという報道が相次いでいる。安価な中国製自動車が欧州地域へ流入していることから、不当競争を危惧するEUが“相殺関税”を課そうする動きがあるためだ。 【画像】えっ…! これが60年前の「海老名SA」です(計14枚) 相殺関税とは、中国自動車メーカーが中国政府から受け取る補助金を関税で相殺して欧州車との価格差を埋めるものだ。 中国車へ輸入関税を課すことについては、欧州自動車メーカー間で温度差がある。中国企業との合弁で中国市場を重視しているフォルクスワーゲンをはじめ、メルセデスベンツやルノーなどはEUに対して公平な競争条件を求めるとして疑問を呈しているが、ステランティスは長年にわたって欧州自動車産業を保護することを訴えている。 このような欧州地域から中国車を締め出そうとする動きと逆行して、イタリア政府は中国自動車メーカーの工場誘致を積極的に推進している。彼らの狙いは一体どこにあるのか。
工場誘致への焦点
ブルームバーグは2024年2月下旬、イタリア政府が比亜迪(BYD)と接触したと報じた。3月に入ってからは、奇瑞汽車や長城汽車、MGモーターなどとも話し合いの場を持ったと伝えられている。 イタリア政府は自国の自動車産業の育成および発展を目指し、2023年に80万台に達しなかった自動車生産台数を130万台まで引き上げることを目標としている。 地元企業であるステランティスに対して、2030年までに年産100万台まで増産することを要請している。しかし同社は、自動車生産の一部を 「低コスト国」 に移管する方針を示唆しており、イタリア政府にとっては第二の柱となる自動車メーカーを自国へ呼び込む必要が生じている。 イタリア政府目標の年産130万台に対して、ステランティスを除いた残り30万台を埋めるための工場誘致に躍起になっており、このことが相次いで報道されている中国自動車メーカー各社との接触の背景にあることは明らかである。 イタリア政府との接触が報道されたBYDは、すでにハンガリーでの工場建設を公表しており、3年以内に新エネルギー車の生産を開始する計画で、欧州域内で二カ所目となる乗用車生産工場をイタリアに設置するかは極めて懐疑的である。 イタリア政府はまた、ベルリン工場の拡張計画が地元の投票で頓挫したテスラとも接触しているとも伝えられていて、実現性は不透明だが、テスラのギガキャスト設備サプライヤーのIDRA社もイタリアにあるため、可能性はゼロではないといえよう。 このように、イタリア政府が自ら掲げる年産130万台達成に向けて、イタリア国内に工場を誘致できる可能性がある自動車メーカーへのアプローチを重ねているのが現状である。 それでは、傘下に伝統的なイタリアの自動車メーカーのフィアットやアルフォロメロなどを配置するステランティスは、イタリア政府から年産100万台の要請を受けるなかで、どのような将来像を描いているのだろうか。