手取り127万円以下。性商売で日銭を稼ぐ…「家がない→職がない」日本の構造上の問題、「住まいと貧困」の悲惨な連鎖【中央大学法学部教授が解説】
生活保護受給者が無制限で受けられる「住宅扶助制度」 また、住宅扶助制度というものもあります。読者のみなさんも、生活保護という制度※1はご存じだと思いますが、その制度の中に、住宅扶助制度があるのです。 生活保護の受給者は、無期限で住宅扶助が受けられるため、生活に困窮した場合に生活保護の申請を遅滞なく行うことによって、制度の範囲において居住空間を喪失するリスクは軽減されます。しかし、審査が厳しく、受給率が極めて低いのが現実です。 また、住宅の物的水準について設定がないことも問題となっています。狭くて劣悪な環境の住宅であっても、住宅扶助は限度額いっぱいが支払われることもあり、貧困者を利用した貧困ビジネスの温床となる危険性があります。 生活保護のぎりぎりの人が利用できる「住居確保給付制度」 近年、厚生労働省が住居確保給付制度というものも実施しています。これは、生活保護制度に至る手前の段階で、または、生活保護を脱却する段階で、自立を支援するための制度として位置づけられます。2015年4月より施行された「生活困窮者自立支援法」に基づくものです。 離職などによって住宅を失い、または失う恐れがある者に対し、就職に向けた活動をするなどを条件に、一定期間、家賃相当額を支給するという制度です。しかし、対象が限定されているうえ、補助が一時的だという限界があります。 さらに、2017年10月からは、住宅セーフティネット制度も導入されています。先述したとおり、公営住宅の増加が見込めない状況である一方、民間住宅の空き家・空き室が増加していることから、それらを活用した制度であるといえます。 大きくは、 1.住宅確保要配慮者(低所得者、発災後3年以内の被災者、高齢者、外国人、DV被害を受けている人など)の入居を拒まない賃貸住宅(セーフティネット登録住宅)の登録制度 2.登録住宅の改修や入居者への経済的な支援 3.住宅確保要配慮者に対する居住支援 という3本の柱からなっています。しかし、現在までのところ普及が十分とはいえません。 このような状況により、住宅セーフティネットからこぼれ落ちてしまって、救済されない人が少なからずいるのが現状です。その人たちは、公的支援が受けられないまま、住宅市場に放り出されてしまっています。 民間の賃貸住宅で低所得者層向けのものもなくはありませんが、時として、建築基準をクリアしない劣悪な住環境の「脱法ハウス」や、違法な追い出しを伴う「ゼロゼロ物件」など、貧困層の窮状につけこんで利益をあげる貧困ビジネスに結びつきます。 貧困者は、場合によっては、徐々に、ネットカフェ、サウナ、施設などが居住空間となる「住宅難民」になり、さらに、屋根すらない状態(路上、公園、河川敷など)へと追いやられます。そもそも、居住空間は、私たちが生きていく上でもっとも基本となる要素の1つであるのに、そのための社会的支援が十分とはいえません。 ※1 生活保護制度は、生活困窮者に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的としている。 具体的な扶助の種類として、生活扶助(日常生活に必要な費用)、住宅扶助(アパート等の家賃)、教育扶助(義務教育を受けるために必要な学用品費用)、医療扶助(医療サービスの費用)、介護扶助(介護サービスの費用)、出産扶助(出産費用)、生業扶助(就労に必要な技能の修得等にかかる費用)、葬祭扶助(葬祭費用)がある。