谷間世代の起こした奇跡 聖光学院のリスタート 選抜高校野球
第94回選抜高校野球大会に出場する聖光学院は昨夏、連続甲子園出場が「13」で途絶えた。リスタートを切ったのは、「力が無い」と言われ続けた選手たち。「目に見えない力」を信じ、奇跡を起こしてきたチームが聖地に挑む。 【松坂も、藤浪も歓喜】写真で振り返る優勝校 昨年10月の秋季東北大会では決勝で花巻東に敗れたものの、準決勝まで粘り強く勝ち抜いた。「決勝まで残れるなんてミラクルだった。選手の成長にびっくりした。感謝しなければ」。斎藤智也監督は、「力が無い」と言い続けてきた選手たちを、驚きを持ってたたえた。 主将の赤堀颯ら現3年生は入部当初から体も小さく、とにかく打てない「谷間世代」と言われてきた。しかし、京都府出身ながら、聖光学院に「一目ぼれ」して進学した赤堀は、入学直後から固い決意を持っていた。1年秋、各選手が試合後に書く「野球ノート」にこう記している。 「口癖になるくらい、秋の神宮(明治神宮大会)、選抜を意識する。どうしても行きたい。みんなで意志は固めた」 当時の思いを赤堀は「絶対やれると思ったし、自分がそういうこだわりを持たないとチームもこだわれないと思った」と振り返る。 2021年夏、聖光学院の歴史を揺るがす出来事があった。福島大会準々決勝で敗退し、13大会続いていた甲子園連続出場が途切れた。斎藤監督は「どこまで勝ち続けられるんだろうと思っていた。冷静に考えたら、甲子園に行くという奇跡に近いことをずっと続けてきた」。負けたことで、どこかで「甲子園に行くこと」がゴールになっていたのではないかと気づいた。連覇という呪縛から解き放たれ、まっさらな気持ちで「甲子園に行って日本一になりたい」と改めて思えた。 ただ、スタートラインに立った新チームは「力の無い」世代。スタッフにも選手にも、不安はあった。赤堀が「力が無いことを受け入れて、一瞬一瞬を積み重ねよう」と、ひたむきにチーム作りを進めようとする中、なかなか前に進めなかったのが、夏からベンチ入りしていたエース・佐山未来(3年)と捕手・山浅龍之介(3年)のバッテリーだった。 佐山は「心のどこかで(当時の)3年生のチームと、新チームを比べてしまっていた」という。山浅は敗れた昨夏の最後の試合で最終打者として打席に立ち、空振り三振に倒れた。「3年生が大好きだったのに、自分が終わらせてしまった」。大会後もその場面が何度も夢に出てくるほど、悔しさと申し訳なさでいっぱいだった。 2人の様子を見かねた赤堀は、心を鬼にして「悔しいのはお前たちだけじゃない」と一喝した。山浅は「新チームのことを考えられていなかった。目が覚めた」。佐山も紅白戦で赤堀らレギュラー選手たちに打ち込まれた後、横山博英部長から「3年生との時間を無駄にしないことだ」と諭され、切り替えることができた。 秋の県大会では打線の援護が少ない中、全6試合に登板した佐山が踏ん張った。優勝を決めると、山浅と涙を流して抱き合った。そして東北大会。走者を背負った苦しい場面でも動じず粘る佐山の姿に、今度は野手が奮起した。スクイズで同点に追いつき、土壇場で逆転、打球が強風に乗って長打になるなど「奇跡」のようなプレーも続き、佐山を援護した。 赤堀は「佐山のためにという思いを全員が持っていたから、見えない力が働いた」。斎藤監督は、想像を超える力を発揮する選手たちの姿を「こいつらよく負けないな」とまぶしく見つめた。 センバツ出場を決めても、謙虚な気持ちは変わらない。冬の間、課題の攻撃力を懸命に磨き、小さな体を少しでも大きくしようと体重アップに努めた。ずっと変わらず、足元を見つめてきた赤堀は「(甲子園に出場する)32校中32なのか30なのか、そういう立場にいると思っている。泥臭く泥臭く、緻密につなぐという思いで戦いたい」。 「力の無い」世代の、力の見せどころだ。【円谷美晶】 ◇全31試合をライブ中継 公式サイト「センバツLIVE!」(https://mainichi.jp/koshien/senbatsu/2022)では大会期間中、全31試合を動画中継します。また、「スポーツナビ」(https://baseball.yahoo.co.jp/hsb_spring/)でも展開します。