『海のはじまり 特別編』複雑な感情が交錯する珠玉の1時間に 水季と津野の切ない恋物語
どんなに思いあっていても、現実は綺麗事だけでは一緒にいられない。幼い子どもがいるならなおさらだ。それでも胸の奥の思いに嘘はつけない――。 【写真】プラネタリウムを楽しむ津野(池松壮亮)と水季(古川琴音) 目黒蓮の療養に伴い急遽放送された『海のはじまり 特別編「恋のおしまい」』(フジテレビ系)。『海のはじまり』本編より3年前の世界を舞台に、水季(古川琴音)と津野(池松壮亮)を主軸とした完全新撮のラブストーリーだ。プロデューサーの村瀬健が自身のX(旧Twitter)にて、「今回の放送は文字通り特別です」と予告した通り、複雑な感情が交錯する珠玉の1時間となった。 登場人物の「その時期」限りの表情や心情が丁寧に描き出された『恋のおしまい』。2021年夏、水季は4歳の海と小さなアパートで暮らしている。テレビの情報番組では東京オリンピックの話題が連日報道されており、当時の世相も色濃く反映されているところも芸が細かい。 図書館司書として働く水季の日常。昼休み、休憩室で1人静かに過ごす水季のもとに、少し緊張した様子の津野がやってくる。彼は躊躇いがちに「……南雲さんさぁ」と声をかけ、「行きたいところある?」と続けた。 思いがけない提案に心が揺れる水季。しかし、自分の気持ちを抑えながら「津野さんのこと好きになりたくないんですよ」と正直に告白する。海のことを最優先にする生活の中では、時間もお金も限られていた。それは水季自身が選んだ道でもあった。実際に、せっかく時間を作って向かったデートの行く先々でも、水季は海のことを思い出してしまう。そんな彼女の複雑な心情にも、津野はしっかりと寄り添う。 水季と津野の間には確かな想いが流れていた。2人は紛れもなく“両思い”だったのだ。水季はこれまで、津野に対して「気持ちを利用している」と語っていたが、本作では「手とか握れます」と思えるほどに特別な親密さを感じていたことが明らかになる。 それでも、水季の心の中から夏(目黒蓮)への思いはどうしても消えなかった。恋愛における男女差の表現としてよく使われる「男性は『名前を付けて保存』、女性は『上書き保存』」。しかし水季は、女性の恋も別ファイルで保存だと主張する。夏への思いも、津野への感情も、心の奥底でそっと共存していたのかもしれない。 そして同時に、水季の中ではある思いも膨らんでいた。好きだからこそ、津野と一緒にはいられない。それは、恋愛感情の先に、海を大切にできなくなってしまう未来が待っているのではないかと恐れているから。揺れ動く水季の心に、結局のところ確かな答えは海を1番にすることだけだった。それは彼女の揺るぎない選択であり、覚悟でもあったのだろう。 そんな水季の複雑な心情を背景に、4歳の海役も観る者の心を揺さぶる演技を見せていた。その海を演じたのは、主演の泉谷星奈の実の妹・泉谷月菜だ。月菜は第7話でも3歳の海を演じており、水季の病気発症前の回想シーンにも登場していた。村瀬は当初、星奈に似た子役探しに苦心していたが、撮影現場での会話から月菜の存在を知り、その愛らしさと星奈との類似性に魅了されて起用を決めたという。 この偶然の起用は大成功を収め、特に水季とイルカを見たいと願う4歳の海のいじらしさが光っていた。幼い海の純粋な願いが、水季と津野の複雑な感情を背景に一層際立つ演出となっていた。 さらに今回の『恋のおしまい』放送時には、『海のはじまり』と「金麦」のコラボ特別CMが放送された。このCMは津野の日常を描いたショートムービーとなっており、脚本はドラマ本編と同じく生方美久が、演出は本編の第4話・第7話を手掛けたジョンウンヒ監督が務めた。CMディレクターとしても知られ、映像美で心の動きを表現する手腕に定評があるジョンウンヒ監督は、『27時間テレビ』(フジテレビ系)で放送された目黒蓮出演の「午後の紅茶」長尺CMも手掛けている。また、『いちばんすきな花』(フジテレビ系)第4話・第7話の演出も務めており、そのノスタルジックな映像センスが高く評価された。 サントリー「金麦」とのこのコラボCMは2週連続で放送予定で、ドラマ本編では描かれない津野の日常を「過去」と「現在」の2パターンで表現。ドラマ本編、特別編、そしてCMと、様々な角度から描かれる登場人物たちの姿に、視聴者の期待は高まるばかりだ。 いままでとは少し違う時間軸の、でも確かにそこにある思いに触れた特別編。ある2人の『恋のおしまい』によって始まった物語は、一体どこに続いているのだろうか。
すなくじら