エルサレム首都問題「当事者間で解決を」 日本外交の基本的な立場とは?
中東和平への日本の基本的な立場とは?
一方、日本政府はトランプ大統領の決定に直接賛否を表明していません。菅官房長官は7日の記者会見で「国連安全保障理事会の決議などに基づき、当事者間の交渉により解決されるべきだ」とし、河野外相は同日、「中東和平をめぐる状況が厳しさを増し、中東全体の情勢が悪化し得ることを懸念している」とコメントしていますが、いずれも誰(どの国)に対して述べているのか分かりません。日本政府は、要するに、トランプ大統領に対して反対意見を言うことを避けているのです。 わが国のエルサレム問題に関する基本方針は「エルサレムの最終的地位については、将来の二国家(注:イスラエルとパレスチナのこと)の首都となることを前提に、交渉により決定されるべきである。我が国としては,イスラエルによる東エルサレムの併合を含め、エルサレムの最終的地位を予断するいかなる行為も決して是認しない。」というものです(外務省「中東和平についての日本の立場」2015年1月13日)。
中東は我が国にとっても死活的に重要な地域であり、日本政府はアラブ諸国とイスラエルのバランスを失しないよう努めてきました。2014年にネタニヤフ・イスラエル首相が来日し、翌年1月には安倍首相がイスラエルを訪問することになりました。日本とイスラエルの友好関係が増進される機運が高まったのです。そこで、日本政府の基本方針をあらためて明示し、アラブ諸国に対する配慮を示したのです。 米国はイスラエル寄りの立場に立つことが多く、日本は米国と同盟国なのでその影響を受ける傾向が常にあります。かつて第四次中東戦争(1973年)の際には、アラブ諸国から「友好国」とみなされませんでした。中東からの石油輸入が途絶える危険が生じたのです。 しかるに、トランプ氏の宣言はエルサレムの最終的地位を予断(=予めこうだと決めつける意味合いがある)する行為であり、明らかに問題があります。日本政府として北朝鮮問題を含め日本の安全保障に強い理解を示すトランプ氏に反対しにくいのは分からないではありませんが、勇気をもって行動すべきであり、トランプ大統領の大使館移転宣言については、「エルサレムの最終的地位を予断するいかなる行為も是認できない」ことをあらためて明言すべきです。 トランプ氏の言動には、国際社会と相いれないことが増えています。環太平洋パートナーシップ(TPP)協定や地球温暖化防止のためのパリ協定などから一方的に離脱しました。さらにはイランの核開発に関しては、米国はもちろん、ロシア、英国、フランス、中国といった国連安保理の核保有国(P5)を含めて決定したことを認めない姿勢です。 日本は、エルサレムを首都とする米政府の決定は無効だとする国連安保理の決議案には賛成しました。この決議は米国の拒否権で否決されましたが、22日(日本時間)にも国連総会で同様の決議案が採決され、こちらは採択される公算が高いとみられています。 トランプ氏は日本に対する理解者であり、心強いパートナーですが、日本としては、必要な場合には反対意見を述べるべきであり、そうすることにより真の信頼関係が構築されていくと考えます。
------------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹