最後は南アフリカで謎の死を遂げた! ポルシェのチューナーとして世界に名を馳せた「ゲンバラ」とは
アバランシェ以降もミラージュなどの名車を送り出した
また、ゲンバラの独特なセンスを見込んで、ポルシェ以外のクルマがもちこまれたのもアバランシェ以降のこと。メルセデス・ベンツ560SECはベルギーのキャラット同様「触るものはすべて金、動くものはすべて電動」にカスタマイズされ、また2台のみが作られたフェラーリ・テスタロッサGTRは噂によればケーニッヒの手によるエンジンチューンが施され、リヤから覗く6本エキゾーストなど「ゲンバラ節の最高潮」ともいえる出来ばえだったかと。 ちなみに、1990年代後半にはゲンバラ・ジャパンやゲンバラ・マイアミなど世界中にディストリビューターを抱え、ビジネスは大いに拡大していました。が、やっぱり栄枯必衰のたとえどおり徐々に失速。チューナーといえども、ある意味では流行商売ですから、致し方ないともいえますが、ウーヴェの場合は金銭問題も少なからず絡んでいたようです。 いろいろと噂が飛び交っていますが、2010年に南アフリカで死体となって発見されたニュースはご記憶の方も大勢いらっしゃることでしょう。なにやら、チェコから逃げてきたマフィアの金をビジネスに流用してしまい、100万ドルがドイツにいた奥様に要求されたものの、奥様はこれをスルー(笑)。数カ月後にはラップでくるまれ、奥歯でしか身元確認ができない状態で発見という、絵に描いたようなトラブル&ミステリです。 それでも、2000年代にウーヴェが送り出した遺作群はアバランシェに負けず劣らずインパクト&クセ強モデルばかり。2005年にはカレラGTをベースとした「ミラージュGT」をリリースし、特注のラムエアインテークシステム、フリーフローのステンレス製エキゾースト、リマッピングされたECUを利用して、5.7リッターV型10気筒エンジンからさらに58馬力を引き出し、合計出力を670馬力、最大トルク630Nmへとチューンアップ。100km/h加速は3.7秒で、最高速は335km/hとスペシャルカーの面目を大いに保つ出来ばえ。 2006年には911ターボをベースにしたモデルにも「アバランシェGTR650ミラージュ」と名付けるなどウーヴェお気に入りだった様子。 ちなみに、こちらも社内チューンでもって650馬力までパワーアップし、8ポッド/380mmキャリパー、3つのインタークーラーを装備するなど「カッコだけじゃない」チューンドカーに仕上がっていましたからね。 そして現在はウーヴェの息子、マーク・フィリップ・ゲンバラが後を継いだというか「ゲンバラ」でなく「マーク・フィリップ・ゲンバラ」というブランド名でスペシャルカーをリリースしています。 911のオフローダー「マーシャン」は40台の限定で作成され、かの959をオマージュしたスタイルや、830馬力のチューンドエンジンなど、父親とはいくらか違った方向とはいえ、しっかりとゲンバラの名を継続させているのは立派ではないでしょうか。 もっとも、南アフリカで発見された遺体というのも本当にゲンバラ本人のものなのかはじつに怪しいところ(笑)。なにしろ奥歯一本での特定ですからね、ウーヴェなら自分で抜いて遺体にはめ込むくらいやりそうです。で、隠れ家でもってデッサンやアイディアを練り、息子に託している……なんて、ちょっと夢のあるストーリーではありませんか。
石橋 寛