怒髪天、祝結成40周年! 人生の大サビに向かって――新曲「ザ・リローデッド」に込めた思い
チバとは30年来の友達だったから……全然ピンと来てない。でも俺は俺のやることをやっていく
ーーたとえばですけど、今からガツンと売れたい、やる限りはヒットを目指したい、とかは? 「いや、売れないよりは売れたほうがいいけど。でも、それが夢で、それが本当に欲しいのか?って言われたら……そうでもないんだよな。4人で〈おおーっ、これはいいぜ!〉って思える新曲作れるほうがよっぽどいいもん。たとえばここから、何十万枚と売れるヒット曲が急にできたとしてね。何が理由なのか全然わかんないようなきっかけで」 ーー謎のTikTokバズ。あってほしいなぁ(笑)。 「ははは! なんだよこれって感じでバズりにバズっちゃって。そうなった時に、忙しくなりすぎて4人でアルバム作ることがしばらくできない、すごいお金入って欲しいもの買えるようになったはいいけど、誰か具合悪くなってしばらくライヴできない、なんてことになるぐらいだったら、そこそこのほうが絶対いいと思うんだよね。大事なものは金で買えないって、よけいにわかってきたのかもしれない」 ーー金で何とかなるものは、結局その程度でしかない。 「そう。でも、それだってある程度モノが買えるようにならないとわからないじゃない。若いうちはわかんなかったよね。アレも欲しい、コレも欲しいって思うじゃない。でも今、たとえば『クリスマスプレゼント、なんか欲しいものある?』なんて言われても、別にないもん」 ーーそういう境地になってみると、「ザ・リローデッド」で〈まだあの夢だけはハッキリ映ってる〉と書いている、この〈夢〉っていうのは何になるんでしょうか。 「これも具体的じゃないんだよね。〈バンドやるぞ!〉って思った時の……バンドやってる姿、バンド像というか。組んだ時の気持ち、これ最高だと思ってる気持ち。それだけはハッキリあるんだ。ただ、そこに付随してたものは全部剥がれ落ちてきた。今は根幹だけが残ってる」 ーーバンドをやると思った時、増子さんが描いたのはどんな景色でした? まずは自分が唄っている姿? 「いや、違うね。バンドとして、複数の人間が塊となって、バーンと何かをぶつける。パッション、勢い、情熱をぶつける。そういうものだった。俺個人の話とか、表現とか、あんま細かいことじゃなかったんだよな」 ーー複数の仲間とドカーンとなることが大事だった。 「うん。たとえば俺、今はスペインのサッカー、ラ・リーガをずっと見てるの。好きな選手ってスター選手じゃないんだ。常にいい仕事をするミッドフィルダーとか、あのへんがたまらんよ。ストライカーってやっぱり役目が大きいし、それを担えるだけのスーパースターではあるんだけど。でもそいつにちゃんと球を持っていく、ゲームメイクをする選手の職人技みたいなものに惹かれるし、感動するんだよね。バンドって、誰かが突出しててもダメで。メンバーがそれぞれ組み合って一個のものになっていく。それでドーンと進んでいくものだから」 ーー傍から見れば、怒髪天のストライカーは増子さん。一番いいところで決める人ですよね。でも実際は違う? 「違うね。俺ひとりじゃどうにもならん。球回ってこないとシュートもできないじゃない。俺らはやっぱり4人とも他の役割ができないし、他のパートには代われない。俺は曲が作れないし、でもみんなは歌詞を書けるわけでもない。それぞれが自分にしかできないことをやって、それがカチッとハマってここまで来てるから。たぶん、個人プレーが基本的に好きじゃないのかもね。相乗効果がないじゃない。俺がギター弾けて曲も書けたなら、またなんか違ったのかもしれないけど」 ーー以前、ギターを弾こうと練習してませんでした? チバさんと対談した時も「ギターやるよ」って言われてたような。 「チバからはさすがに貰えない(笑)。しかもあいつ、いろんな人にあげたギター、『やっぱり返してくれ』つってたからね。全部結局チバのとこに戻る(笑)」 ーーはははは。 「でもやっぱ、何回やっても弾けないんだもん。練習であんなに痛みを伴うって……おかしくない? キーボードだって、アホみたいに強く叩けば別だけど、指はそんな痛くないよ。ギターはもう、やって5分で指痛いんだよ!」 ーーじゃあそこで、キーボードを練習してみよう、とは? 「あ、ピアニカならできると思ってね、買ったのよ。でもさ、やっぱこう(鍵盤を縦にして)吹きたいじゃない」 ーーあぁ。横に置いてホースで吹きたくはない。 「そう。ホースはカッコ悪いなと思って。でも縦で吹こうとすると鍵盤が見えない。あれは基本的にピアノ弾ける奴がやれることで。しかも、考えてみたら唄いながらできない。ラッパもそう。唄いながらできるものがやっぱりいいと思ったら、ギターになるじゃない? ギター……無理だね、痛い」 ーー何度かトライしてましたが、ギターはいよいよ……。 「うん。今、いつもゲームする時座ってるソファの下にある」 ーー見ないようにした! 「はははは! ギタースタンドにはぬいぐるみが刺さってる」 ーーはい。あと、チラッと名前が出たチバさんのこと。今、どんなふうに思っていますか。 「そうね……俺らってバンドマンとかミュージシャンである前に、30年来の友達だったから。友達が死んでしまったことに対しては、現状全然ピンと来てないし………なんも言えんなぁ。安らかに、とか、そんな感じでもないし。現実感がないんだもん。昔から友達だし、普段からちょいちょい会ってたから。俺らが活動再開して数年して、ちょっと勢いついてきた頃に呑んだけど、すごい真剣な顔して言ってくれたんだ。『ちゃんと好きなことやれてるの?』って。『やりたくないこと無理してやってるとか、ない?』『いや、ないよ』『じゃあよかった』って、にっこりしてた」 ーーたぶん、お互いにファンでしたよね。 「すごく心配してくれてね。チバが心配したような面白い曲、俺らは喜んで作ってたんだけどね(笑)。で、そのあとは会うたびに『売れろよ』って言ってくんの。スタジオで会うたび、いっつもバドワイザーでベロンベロンに酔っ払ってた。そんで最後は『増子ー、もっと売れろ!』って」 ーーわははは。 「いっつも言ってた。俺だって売れてぇよ。そこは俺が何とかするとこじゃねぇもん(笑)。でもさ、そんなこと言ってたなぁなんて思うと………その、ね? チバの願いを叶えてやったほうがいいんじゃないかな? みんな」 ーーみんな、なんだ(笑)。 「そう。俺にはどうしようもできないので。でもチバが言ってたことだし。みんな、そのメッセージは受け取ったほうがいいんじゃないかな。あいつの願いを、ってことで(笑)」 ーーいよいよ、ちょっとだけバズるかもしれません。 「ははははは! すげぇ便乗してくるな!って思われるよね。でも新曲作ってても思ったな。人生みんないろいろあって、辛いこともいっぱいあるし、この先どうなるか誰にもわからなくて。大団円なんてものはないのかもしれない。まぁでも、それでも俺は俺のやることをやっていく。そうやって自分を奮い立たせていくしかないよね」 ーーよけいハッキリしますよね。代わりもいない。 「そう。若い頃『このメンバーで長く続けていきたい』って言ってたの、メンタルの問題だもんね。みんなが仲良いとか、そういうことも含まれる。今となると、もう物理の問題だから」 ーー物理的な危機感、残された時間に対する気持ちも、新曲にしっかりと刻まれています。 「たぶん、これって親父が死んでからなんだよね。ほんとに思った。病気は違うかもしれないけど、結局こうやって俺も死んでくんだろうなって。そこから考えだすと、ほんとに何が正解なのかわからないし、何が欲しかったのか、いよいよ混沌としてくるんだけど。大きいものと小さいものが振り分けられてくる。それが面白いなって思うようになってきた」 ーー面白いんですか? 「うん。別に身辺整理とかじゃないけど、大事にしてたものがあったとして、〈ま、これ要らねえか〉とか思った瞬間〈これ要らねえって俺思うんだ?〉って、びっくりする。今まで靴が欲しいだの革ジャンが欲しいだの、あとはこれやってみたいとか、ほんといろいろ欲があったんだ。それが厳選されてきた。残り時間のこと思うと、何を残すべきなのか、いろんなことを改めて考え直すようになってきたかな。60に向けて」 ーーはい。40周年、元気に突き進んでいただきたいです。2月には40周年記念イベント、大感謝祭もありますし。 「そうね。これも楽しみにしててほしい。かなり振り幅の広いゲストありだから。乞うご期待!」
石井恵梨子