選挙予測報道の意義を考える 株式会社デザインルール代表・佐藤哲也
選挙予測報道は分析方法を明示することが必要
とはいえ、選挙期間中に行われる議席予測報道が、不公正で有権者を惑わすようなものであってはならないことは当然です。そのためには、予測方法が適切に行われていることやその方法などを明示することが必要です。これは、民主主義を実践するメディアとして、世論調査やその記事化において欠かせない責務です。 ほとんどのマスメディアはその点で大きな問題があるとは思いませんが、一部のネット事業者の調査や予測にはすこし疑念をもたれるものもあります。たとえば、ニコニコ動画の行っている予測は、ニコニコアンケートの調査を元に、独自の分析を加えておこなわれているとのことですが、その具体的な方法をもっと明らかにすべきです。というのも、ニコニコアンケートはニコニコ動画の利用者という偏った調査に基づくもので、それをどのように処理したのかの詳細がなければ、報道の読み手はその予測の価値をはかりかねるからです。 また、ニコニコ動画の予測の興味深い点としては、公示日より選挙当日の予測のほうが予測としては精度が低かった点です。具体的には290議席となった自民党の議席数が、公示日予測では289議席とほぼ的中していたのにもかかわらず、投票日の予測では307議席と予測の精度が悪化していました。当然ながら、事前予測よりも現象発生日の予測が結果に近づくべきなので、ニコニコ動画の予測方法は、おそらく何らかの改善の余地が有るはずです。 世論調査やその結果報道においては、結果の正確さ以上に、その調査・分析手法などの信頼性が重要です。その方法が信頼できるものかどうかによって、読み手はその予測をどう読み取るかを決められるからです。その観点から、ニコニコ動画は「独自の分析」の方法を明示するべきでしょう。
世論調査技術が発達した今日、選挙の価値は相対的に下がっている
ところで、選挙予測報道の意義について考えを深めてみると、民主主義や選挙、政治のあり方を考えなおしても良いのではないかと思い至ります。我が国で男子普通選挙が実施されたのは1925年で、完全普通選挙は45年です。当時は世論調査技術がほとんど存在しなかった時代で、民意の集計としての選挙という機会は相当の価値があったものと考えられます。 一方、世論調査技術が発達した今日、民意の集約システムとして考えると、選挙、特にわざわざ特定の場所で候補者名を記名するという時代錯誤で面倒な選挙の価値は相対的に下がっています。もちろん代議制の間接民主主義をすぐに否定するつもりもありません。しかし本当に民主主義を尊重するのであれば、むしろ世論調査が行われるように、もっと高い頻度と様々な形式で民意が集計され、政治のプロセスに反映されていてもおかしくないのではないではないか。そんな気がします。 ---------------- 佐藤哲也(さとう・てつや) 株式会社デザインルール代表取締役。元静岡大学教員。Voting Assisted Applications(投票支援システム・いわゆるボートマッチ)や集合知による未来予測ツールなどを開発。