「狼」のような個人投資家が徒党を組み、狙った企業を買い上がる…！究極の敵対的買収「ウルフパック戦術」の行方
「買収」のイメージが変わった
かつて企業秩序を乱す許されざる所業だった「敵対的買収」は、今や経済産業省が「同意なき買収」という言葉に変えて、企業価値の向上につながる提案であれば、「真摯に対応すべき」という指針を昨年8月に打ち出すほどに変化している。 【マンガ】「長者番付1位」になった「会社員」の「スゴすぎる投資術」の全容 「物言う株主」といわれてきたアクティビストは、株を買い占めて企業を揺さぶり高値買い戻しを求める強欲な連中として嫌われた。その市場認識を受けて村上世彰氏は東京地検特捜部に逮捕されたが、今、村上氏は企業と業界に再編を促すプロ投資家として誰もが認知する存在だ。 では投資家が徒党を組み、狙った企業を買い上がる「ウルフパック戦術」はどうか。「ウルフパック」とは狼の群れのこと。今はその狡猾さを感じさせるネーミングと合わせ嫌われているが、市場に認知される可能性はあるのだろうか。 東証スタンダードに上場するケーブル大手「三ツ星」を例に検証したい。 証券取引等監視委員会は6月28日、三ツ星の株式取得を巡り、シンシア工務店、和円商事、同社代表のA氏が、'21~'22年に大量保有報告書を提出していなかったなどとして、3者に計98万円の課徴金納付命令を出すよう金融庁に勧告した。 金額的にはたかだか98万円である。だが納付命令に至る過程は、証券市場のひとつの方向性を示している。
会社の自己都合を許さなかった
三ツ星は'22年2月、シンシア工務店の代表が業務執行者を務めるアダージキャピタル有限責任事業組合から、突然、社長を含む取締役3人の解任と新たな取締役3人の選任を含む株主提案を受けた。三ツ星経営陣は臨時株主総会でそれを退けたうえで、「適格者」と判断した株主に通常の株を割り当てる一方、「非被適格者」には権利行使に制限のある株を発行するとした増資を発表する。 反発したアダージ側が差し止めを求めて大阪地裁に提訴。地裁は「増資を正当化するものはなく、割当は不公正な方法によるもの」という理由で差し止めた。経営陣の保身を理由とする増資は認められないというわけだ。'22年7月に最高裁で確定し、同年9月、経営陣はいっせいに退任した。 この判決はウルフパックという存在について裁判所が判断を下したわけではない。裁判所は公平公正な市場環境を確保するために、「非適格者」を勝手に決めて排除する会社側の自己都合を許さなかった。 近年、取引所と行政が連動して上場企業と証券市場を活性化させるための方策が取られている。効果的だったのは、東京証券取引所が昨年3月末に行ったPBR(株価純資産倍率)の改善要請である。PBR1以下、つまり会社を解散して純資産を株主に分配したほうが、株主にとってはメリットがあるような会社に「もっと稼げ！」とハッパをかけた。結果、1年でPBRが1倍を切る会社は890社から649社に減った。株高のひとつの要因となった。
