サザンオールスターズ、“真逆のプロダクション”が推進力に 独自の流儀で突き詰めたダンス&ロック
お陰様で多くの方々から嬉しいご感想を頂いている拙著『いわゆる「サザン」について』であり、その御礼を述べさせて頂きつつ、さて本コラムのテーマは、話題の新曲二作品についてである。まずは「恋のブギウギナイト」から。 【写真多数】サザン『茅ヶ崎ライブ2023』で貫禄のステージ 主題歌となったドラマ『新宿野戦病院』(フジテレビ系)も、最終回でサザンオールスターズの面々が登場し、ドラマ出演者の皆さんと共に晴れやかな幕切れとなった。で、この楽曲の特色といえば、ここ何十年間かのダンスミュージックを、縦断するかのような構造であることだ。 重要なのはリズムトラックだ。実は今回、EDMの制作などに利用される、ネットが提供するループ音源も活用されている。ただ、あくまで取っ掛かりとして、である。桑田はループをスタジオに流しつつ、ギターを弾き、仮歌を口ずさみつつ、メロディを紡いでいったらしい。 歌詞を書く段階になり、ドラマの舞台が新宿・歌舞伎町といったことも意識され、結果、あの街に渦巻くカオスと、そこに息づくバイタリティをイメージさせる作品へと発展したのだ。 ダンスミュージックというキーワードは、この場合、桑田の個人史ともリンクしている。曲のタイトルの“ブギウギ”は、アフリカ系アメリカ人が発明したピアノ奏法のことというより、70年代後半のディスコ文化(テイスト・オブ・ハニーの「今夜はブギ・ウギ・ウギ」など)からの引用である。まさに彼の、学生時代の記憶だ。歌詞に登場する〈BUMP〉や〈シェイク〉も、70年代のディスコ用語である。 斬新なのはボーカルトラックだろう。ふだんよりオクターブ下で歌い始められ、やがて通常キーの歌声が重なる。歌全体としては、惚れた相手への下心と純真が、ペーソス溢れる言葉で綴られている。下半身はノリノリで、上半分は胸キュンな、そんな仕上がりと言えるだろう。
過去にない王道ロック路線な「ジャンヌ・ダルクによろしく」
もう1曲の「ジャンヌ・ダルクによろしく」は、「恋のブギウギナイト」とは真逆のサウンドプロダクションだ。しばしば桑田のソングライティングは、連続する時間のなかで作品ごとに振り子の作用を果たし、バンドの推進力を生んできたが、今回の二作品にも当てはまるかもしれない。 「ジャンヌ・ダルクによろしく」は、ベーシックを録る段階からセッション感覚の音作りが成されている。ストーンズ・タイプのエイトビートから小手慣らしして、やがてZZトップ的なものへと発展したそうだが、ここまで王道ロックを意識したオリジナル楽曲は、過去になかったと言っていい。 そもそも彼らの生み出してきたものは、例えば「ロック」と分類されるものであっても、時代に即し、配合を変化させつつのミクスチャーだったことが多かった。 歌詞に関しては、長くバンドを続けている自分達を歌ったとも受け取れる(特に歌い出しは)。それでいて、パリオリンピックをはじめとするスポーツテーマという役割も果たし、アスリートのフィロソフィーとも合致する内容である。 なお、この原稿を執筆しているのは、彼らが最終日のトリを務める『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024』の直前である。これまでのバンドの流儀でいうなら、今回の新作二作品も、セットリストに加わるはずだ。目の前に居るであろう数万の観客に対し、「恋のブギウギナイト」と「ジャンヌ・ダルクによろしく」は、まったく違う効能を発揮するだろうし、特に“ジャンヌ・ダルク”には、〈熱いステージが始まるよ〉という歌詞すら書かれているのだった。 フェスが終われば、この冬にリリース予定の新作アルバムへの集中度が、さらに増していく筈である。今回の二作品からアルバム内容を予測するのは難しいが、振り幅と奥深さにおいて、サザンオールスターズにしか有り得ない容積を有するものになることだけは確実だろう。
小貫信昭