真藤舞衣子(料理家)「函館・小田島水産食品直売所」──木桶仕込みの塩辛をテイスティング。特集:車とともに旅に出よう。
旅の季節がやってきた。西へ東へ、国境さえも越えて、車はどこまでも私たちを運んでくれる。かつて、若きジェントルマンは未知なる世界へ、見知らぬものと出会い、自身を高めるために旅に出た。車を相棒に、グランドツーリングへと出かけよう。料理家の真藤舞衣子とグルメの注目スポット、函館に向かった。 【写真を見る】旅の様子。
発酵食品を使った料理レシピや、食材の発酵について数々の著書を刊行している真藤は、言わば発酵のエキスパートでもある。函館でも発酵食品をチェックしたい...…となれば、やはりイカの塩辛だろう。函館はイカの一大産地であり、あの有名な「いかめし」も函館本線森駅の駅弁であるのは周知の事実。 「私が発酵の師と仰いでいる小泉武夫先生(東京農業大学名誉教授)の弟子といわれる塩辛のメーカーがあるので、ぜひ行ってみたいんです」 ということで向かったのは小田島水産食品。大正3年に食料品店として創業し、塩辛をつくり始めたのは昭和22年からという。いまはすっかり珍しくなった木桶での発酵を守り続ける一徹な水産加工業者である。 「木桶は生きているから、そこにすみついている微生物や発酵菌が塩辛をじっくり美味しくしてくれるんです。プラスチック樽は軽くて扱いやすいけれど、(発酵しにくく)調味料が3倍必要になっちゃう」とは、3代目社長の小田島隆。 さばいたイカを1日塩漬けし、秋田杉の木桶で熟成させること1週間。その間には毎日、木桶に棒を差し込み、微生物に呼吸させることで発酵を促した塩辛は、仕込んだ翌日に出荷するような他の塩辛とは一線を画す......と、そこまで聞いたところで真藤からひと言。 「あのぅ、そろそろ試食させてい ただけないでしょうか(笑)」 じつは小田島水産食品の工場には試食ができるショップが併設されており、 ここでオーダーできる「塩辛食べ比べ」は塩分濃度、使用しているイカの部位、トッピングなどから、なんと10種類ものバリエーションを楽しめる名物メニューであったのだ。 「イカ耳の部分が多めでコリコリした食感のタイプが好きかも。これはお酒を呼んじゃうなぁ」もちろん上川大雪などの地元の日本酒やワインも揃え、最近では塩辛を使ったアヒージョやパスタなど本格的な料理もオンメニュー。塩辛をフィーチャーした和風バルという趣である。朝酒をキメてよし、アペロに立ち寄ってよし。製造現場を脇目に角打ち気分で飲めるのが函館ならではの贅沢だ。 ■小田島水産食品直売所 住:北海道函館市弁天町20-7 TEL:0138-22-4312 営:8:00~18:00 休:なし https://odajimasuisan- hakodate.com/ ■真藤舞衣子(しんどうまいこ) 料理家。会社勤務を経て1年間京都の禅寺で生活、パリのリッツ・エスコフィエでディプロマ取得。主に発酵料理を得意とし、和洋中、スウィーツ、パンなどの幅広いレシピで人気。主著に『和えもの』『はじめてのサワードゥ ブレッド』『発酵美人になりませう。』など。
文・秋山都 写真・山田晃 イラスト・尾黒ケンジ 編集・岩田桂視(GQ)