人気マンション「秀和レジデンス」に恋した、40代フリーランスの1年半の軌跡。“現金一括購入”の猛者にも負けず...
SUUMOのお気に入り検索条件に「秀和レジデンス」と設定し、毎日のように新着物件をチェック。条件に見合う物件が出るたびに内見に行き、その場で申し込みをするものの、どれもこれもその後、現金一括で購入したいという富豪が現れ、とんびに油揚げをさらわれるかたちに。 ただでさえリノベに向いている物件というのは限られています。市場に出回る中古マンションのほとんどは、販売業者によってすでにリノベがされたもの。当然、その分、販売価格は上がりますので、これからリノベをするつもりの僕にとって、わざわざ割高の値段を払ってリノベ済みの物件を買うメリットはありません。つまり、リノベをするならば、まだ業者の手が入っていない、言葉を選ばずに言うと汚くて古い部屋を探さないといけない。 それだけでも一苦労なのに、僕の場合、そこに「※ただし秀和レジデンスに限る」という注釈までついてくる始末。んなもん、ウォーリーよりも見つからねえ。 しかも、やっとの思いで見つけた物件を、後から現れる現金一括という最強のカードを持つライバルに奪われるわけで。今まで知りませんでしたが、こんなにも現金一括で中古マンションを買う猛者がこの世にいるんですね。なんなの? 業者なの? こちらも申し込みをするからには、その物件が手に入る未来を思い描いているわけです。この街に住んだらどんな生活になるだろう。この部屋の形だったら、じゃあキッチンをどこに配置しよう。そんなことを考えながら売主からの返事を待ち、結果、毎回玉砕だとさすがにメンタルがキツい。気分は完全に『101回目のプロポーズ』の武田鉄矢です。 それでも、何かのAIのごとく来る日も来る日も「秀和レジデンス」で検索し続け、気づけば1年半が経過。もうとっとと別のマンションにすればいいことくらい自分でもよくわかっています。だけど、どうしても秀和レジデンスのことが忘れられなかった。 ここぞとばかりに打ち明けますが、僕は歴代の元カノからもらった手紙さえ、いまだに全部保管しているような人間です。自分がいかに未練がましいかは重々承知しているつもりでしたが、このときばかりは己の執念深さにさすがにちょっと引きました。たぶん僕にいちばん向いているのはライターではなくストーカーだと思う。 けれど、時にはその妄執が奇跡を呼ぶこともある。10000回だめでへとへとになっても10001回目は何か変わるかもしれないと吉田美和は言っていました。その10001回目がついに僕にもやってきたのです……! 構成/山崎 恵
横川 良明