来日する英国のピアニスト、ベンジャミン・グローブナー…華美を抑えた実直な音作り
欧米で10代の頃から注目を集めている英国のピアニスト、ベンジャミン・グローブナー(32)が来月に来日し、個性的なリサイタルを開く。「天才肌」と称される演奏家の飾らない素顔と実直な音楽作りに迫った。(松本良一)
ロンドンに近いエセックス州で生まれ、11歳でBBCのヤング・ミュージシャン・オブ・ザ・イヤーを史上最年少で受賞、18歳で英の名門デッカ・レーベルと契約するなど華やかな経歴を持つ。その演奏は音楽の構造と内面に迫るべく華美を抑え、柔らかなタッチで作品に寄り添う。
「聴衆受けを狙ったステレオタイプの演奏にはしたくない。構築性と技巧のバランスを取ることを心がけている」
昨秋の来日時に弾いたショパンとリストのピアノ・ソナタはその好例だった。作品の堂々たる構成に目配りしつつ、ロマンチックな情緒を即興的に描き出す手腕は、「よくある名演」とは一味違う。
「19世紀ロマン派の作品が好き」と言う通り、優しく甘やかなセンスの持ち主で、テクニックを誇示するタイプではない。2022年にデッカで録音したシューマンの「クライスレリアーナ」などを収めたCD(国内未発売)も、シューマンと妻のクララ、弟子のブラームスの3人の感情を対話するように配置した選曲で、「ひとつの物語のように聴いてほしい」と言う。
特定のピアノの流派には属していないと語る。つまり、お決まりの解釈ではなく、自問自答しながら音楽家として成長している。「楽譜を読む時はいつも紆余(うよ)曲折、試行錯誤の連続です。音楽の解釈とはそもそもそういうものなので、いつも柔軟でありたい」
12月18日に川崎・ミューザ川崎シンフォニーホールで開くリサイタルでは、ブラームス「3つの間奏曲」、ラベル「夜のガスパール」、ムソルグスキー「展覧会の絵」を弾く。それぞれ叙情性、名技性、物語性に焦点を当てたプログラムにどんなアイデアを盛り込むのか期待も高まる。
今後はベートーベンなどの古典派や現代曲などにも取り組み、妻でバイオリニストのパク・へユンらと室内楽にも取り組む。「ピアノという楽器の可能性を様々なジャンルで追求していきたい」
午後7時開演。(電)045・453・5080。