「きっかけ食堂」きょう10周年 東日本大震災、月命日に各地で開催 東北3県の食材使い復興支援
始まりは京都から
東日本大震災犠牲者の月命日の毎月11日に開く食堂、NPO法人「きっかけ食堂」が11日で10周年を迎えた。東北3県の農水産物を食べて復興について考えるきっかけにしようと、京都で始まり、東京や仙台にも拡大した。東北に移住し、農業支援に携わるメンバーが生まれるなど、食や農を通じた復興支援の輪が広がっている。 京都の学生が始めた当初の「きっかけタイム」の様子(2017年2月撮影) 同食堂は2014年5月に当時、京都の立命館大学の学生だった3人が始めた。店で扱う食材は原則、被災地で知り合った生産者から購入したものだ。料理と共に同食堂の名物となるのが、毎時11分に東北の復興や生産者への思いを来店客らが語り合う「きっかけタイム」。この形式は農家の一言から生まれた。 「俺たちが悪いんだ」。同食堂代表の原田奈実さん(29)が大学2年の時に出会った農家、関谷裕幸さん(52)=福島県白河市=の悲痛な叫びは衝撃だった。関谷さんは当時、東京電力福島第1原子力発電所事故による「風評被害」で野菜がほとんど売れず、自暴自棄になっていた。
「風評被害に苦しむ農家の支えに」
これを機に「風評被害に苦しむ生産者の復興支援ができないか」(原田さん)との思いが強くなり、被災地の生産者について来店客らが語り合う今の食堂の形式を構築した。 関谷さんは「食堂の理念に感銘を受け、何度も食材を送った。風評被害に苦しむ農家の支えになったと思う」と振り返る。 現在メンバーは約50人が在籍。店の運営だけでなく、現地を訪れるツアーや被災地域の団体との連携イベントなども手がける。また熊本地震や能登半島地震の被災地の特産品を味わう催しも開いた。
活動転機に移住 食の魅力を発信
活動を機に東北に移住した人がいる。東京出身で仙台会場を担当する佐々木彩乃さん(26)もその一人。宮城県利府町の地域おこし協力隊として、4月から農業支援に携わる。佐々木さんは今後、地元の高校生と協力し商品開発を進める予定で、「これからも東北の食の魅力を発信し続けたい」と力を込める。節目の11日は、宮城で収穫体験、京都と東京で大感謝祭と題した飲食イベントを開く。 同食堂では運営継続の危機があった。創設メンバーが大学を卒業し店を離れる時に、後継者問題が発生。新型コロナ禍の時には実開催ができなかった。 苦難を乗り越える上で支えとなったのが、原田さんが高校時代に宮城県石巻市で出会った被災者の言葉「若い人に期待しているよ」だ。「今後も東北の期待に応えたい」。原田さんは意欲を燃やす。(前田大介)
日本農業新聞