コロナ禍の中国「白紙革命」で明らかになった習近平主席「一強体制の罠」と、突きつけられた「共産党への不満」
橋爪:白紙運動では、何も書いていない白い紙を無言で掲げる学生らが、中国各地に出現しました。 峯村:ほとんどが真っ白い紙を掲げていたのですが、私は一部の学生が2つのことを書いて掲げていたのを見つけました。ひとつは「中国共産党の打倒」、もうひとつは「習近平、退陣しろ」だったんです。このインパクトは大きい。 1989年の天安門事件に参加した人たちの話を聞く限り、当時は「中国共産党の打倒」や「鄧小平の退陣」を求める人はほとんどいなかったそうです。学生たちが求めていたのは、「政治の民主化」であり、「生活の改善」といった要求だったのです。それが「白紙革命」の後半は「中国共産党打倒」という主張になった。中国共産党の歴史のなかで、「共産党の打倒」を謳った抗議運動はきわめて珍しいのです。 ではなぜ、「白紙革命」が天安門事件と比べて早期に収束したかというと、中国ではAI(人工知能)が搭載された2億台とも言われるカメラが全国いたるところに設置され、ネット規制も強い「超監視社会」が構築されているからです。デモに参加した市民はすぐに警察当局に特定されて事情聴取されています。もし、こうした監視体制がなかったら、「白紙革命」は全土に広がり、共産党体制を揺るがす事態に発展していたと私はみています。 まさに習近平がパワーの頂点を極めた直後に問題が発生した「一強の罠」に陥っていると言っていいでしょう。今回の「白紙革命」を通じて、中国に人びとの共産党と政府に対する強い不満がくすぶっていることがわかりました。これを「超監視社会」で、力ずくで抑え込んでいるのがいまの中国の現状なのです。人びとの膨らみ続けているこうした不満が、どのように爆発するのか。非常に予測は難しいと思います。 (シリーズ続く) ※『あぶない中国共産党』(小学館新書)より一部抜粋・再構成 【プロフィール】 橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう)/1948年、神奈川県生まれ。社会学者。大学院大学至善館特命教授。著書に『おどろきの中国』(共著、講談社現代新書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)、『中国共産党帝国とウイグル』『一神教と戦争』(ともに共著、集英社新書)、『隣りのチャイナ』(夏目書房)、『火を吹く朝鮮半島』(SB新書)など。 峯村健司(みねむら・けんじ)/1974年、長野県生まれ。ジャーナリスト。キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。朝日新聞で北京特派員を6年間務め、「胡錦濤完全引退」をスクープ。著書に『十三億分の一の男』(小学館)、『台湾有事と日本の危機』(PHP新書)など。
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