「男性機能を維持したい」小倉智昭さんの命を奪った膀胱がん 医師が警告「浸潤性がんはスピード勝負」
全摘すれば5年生存率は70%超
小倉智昭さん(享年77)は、膀胱がんに端を発した8年におよぶ闘病生活の末に生涯を閉じた。その経緯には、がんの早期発見の重要性、治療選択の難しさ、そして病気が進行する厳しさが色濃く映し出されている。 【これぞ大人の嗜み!】美女と音楽を楽しむ在りし日の小倉智昭さん 小倉さんは膀胱全摘の決断を躊躇(ちゅうちょ)した理由について、生前「男性機能を失うことへの恐れが、治療の決断を遅らせてしまった」と語っていた。 「小倉さんの言葉は、多くの膀胱がん患者が抱える葛藤と共通するものだと思います。しかし、治療の遅れが命を縮める要因となり得るのが現実です」 と「くぼたクリニック松戸五香」院長の窪田徹矢医師は声を落とした。 「膀胱がんは大きく非浸潤性がんと浸潤性がんの2つに分けられます。非浸潤性がんであれば、内視鏡治療で膀胱を温存できる可能性が高く、5年生存率は90%以上です。しかし、がんが筋肉層に達する浸潤性がんでは、膀胱全摘除術が必要になるケースがほとんどです。 浸潤性膀胱がんでも、適切な時期に膀胱全摘を行えば、5年生存率は70~80%を維持できます。しかし、手術の時期が遅れ、転移が見つかった場合、生存率は大きく低下してしまいます。 数字で言えば、リンパ節に転移した場合の5年生存率は35%程度、さらに遠隔転移が見られる場合は15%以下まで低下します。だからこそ、浸潤性膀胱がんと診断された場合は、できるだけ早期の治療決断が重要なのです」(窪田医師) 浸潤性膀胱がんでは、治療決断のスピードが生存率に直結する。しかしながら、膀胱全摘除術の説明を受けた男性患者の多くが「性機能の喪失」に悩むという。窪田医師が語気を強める。 「性機能が損なわれる可能性は、男性にとって大きな心理的負担となります。それはわかるのですが、治療を遅らせることで、さらに深刻な事態を招くことを考えるべきです。がんが進行して転移すれば強力な化学療法が必要となり、副作用によって体力も免疫力も低下。生活全般に大きな影響が出ます。性生活どころか、日常生活そのものが大幅に制限されてしまうのです」 ◆「寛解した可能性がある」 治療選択の際、男性機能を喪失する不安を医師に伝えることは容易ではないかもしれない。しかし、遠慮なく相談することによって、かえって患者側が納得できるようになる。非常に大切なステップなのである。 「我々医師も患者さんのQOL(生活の質)を守りたいと考えています。近年の医療技術の進歩は、治療後のQOL向上に貢献しています。性機能温存のための神経温存手術や、術後のリハビリプログラムも進化を続けています」(窪田医師) 小倉さんは民間療法にチャレンジするなど、2年遠回りした。もし、早期に膀胱を全摘出していれば「寛解していた可能性がある」と窪田医師は続けた。 「最初の診断の時点で全摘を選択していれば、寛解した可能性はあります。しかし、これは決して小倉さんの選択が間違っていたということではありません。ご自身の闘病の様子を公表した彼の姿は、私たち医師にとっても多くの学びがありました。確かに治療の遅れによるリスクはありましたが、そこも含めて、小倉さんはつまびらかにしました。がんに負けずに仕事を続け、人生を楽しんだ姿勢に、心からの敬意を表します」 小倉さんの選択をどう考えるか。そこから何を学ぶか。テレビマンとして、人生を賭して問題提起した彼の心意気に残された者は応えねばならない。
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