菊を虹色や紫色に 「理想の色になるとうれしい」 愛知県田原市の林さとみさん
淡いピンクに水色、紫色――。輪菊に染料を吸収させて染め上げた「カラーリングマム」を前に、顔がほころぶ。「理想の色になるとやっぱりうれしい」。愛知県田原市の輪菊農家、林さとみさん(49)は、菊の新たな魅力を追求する。 【動画】菊を虹色に染める過程を実演する林さとみさん 「趣味部屋」と呼ぶ自宅の部屋には、染色液や色に関する本などが数多く並ぶ。「染まり方って、菊の作り手や染色液、染色時間、気温で全然変わる」と林さん。これまで100色以上の試作を重ねてきた。 カラーリングマムの魅力に初めて触れたのは5年ほど前。所属するJA愛知みなみ輪菊部会の農家が装飾した輪菊の祭壇の中に、虹色に染まった輪菊を見つけた時だった。「こんなに色が出せるんだ」と目を奪われた。 高校の同級生で、輪菊農家だった夫との結婚を機に就農した林さん。「自然な発色の菊は確かに美しい。でも、カラーリングマムにしか出せない魅力がある」と強調する。 夫と輪菊を栽培しながら、カラーリングマムの試作を繰り返した。当時は周囲で本格的に実践する人はおらず、染め方は手探り状態。一方、小規模な家族葬の増加で徐々に輪菊そのものの需要減が進む中、次の一手としてカラーリングマムに期待する農家も出てきていた。2021年には部会内に、染め方などを研究する勉強会を設立。仲間とともに生産を始めた。 バラやカスミソウなど他の花でも染色があるため、染料メーカーからは「今から既製品の染色液で始めても、競争は難しいのではないか」と指摘された。 「だったらオリジナルカラーを作ろう」。そう決意した林さんは、菊の和風のイメージを生かした色を模索。試作してきた色を基に、「群青色」「虹色」など13色を選出。勉強会に所属する農家だけが使える色にした。 現在25人が勉強会に所属。既製品の22色と合わせて計35色を生産し、JAを通じた23年度の販売数量は5・5万本の見通し。3年ほどで4倍に迫る勢いで増えている。 「カラーリングマムの魅力を生かして、お供え花の代名詞の輪菊をハレの日に選ばれる花にしたい」。仲間と切り開いた新たな輪菊生産の道をまい進する。(木村薫)
日本農業新聞