宇宙開発が「思っているほど進んでいない」現実的な5つの理由
宇宙開発は、地球が抱える問題を解決する役には立たない?
だが、これらの手段で宇宙へ向かう人は、「カーマン・ライン」と呼ばれる、高度100kmにある、地球の大気圏と宇宙空間を隔てる仮想の線を越えることはない。 では、小惑星からの資源採掘はどうだろうか? 地球に接近する軌道を持つ地球近傍小惑星から鉱物資源を採取するという壮大な計画は、15年から20年ほど前は盛んにもてはやされていたが、最近はあまり聞かない。 小惑星からの資源採掘に、初期の段階で手を上げた者たちは、このプロジェクトの困難さを過小評価していたため、確保した資金は必要額に到底足りず、事業継続のためにかき集めた資金では十分な進展は得られなかったと、パイルは指摘する。 パイルによれば、太陽系の小惑星帯(メインベルト)にある小惑星「プシケ」(16Psyche)には、採掘可能なプラチナが埋蔵されており、その価値は最大で10京ドル(約1500京円)におよぶ可能性があるという。 ただし、プラチナのような貴金属やレアアースと呼ばれる鉱物を、採算を確保しながら、大量に、なおかつ安全に地球まで運ぶにはどうしたら良いのかという難問が残っている。 ■理由その4:多くの人は「宇宙開発は、地球が抱える問題を解決する役には立たない」と考えている 低軌道への旅行が可能になったことで、広く一般の人々が、私たちが暮らす惑星、地球のはかなさを知り、この惑星を守るために最善を尽くすべき理由を悟るようになった側面はある。 我々人類が直面する環境問題について大量の知見が得られているのは、地球を周回する数多くの人工衛星など、宇宙環境に送り込まれた資産があってこそだと、パイルは語る。 NASAの予算のうちかなりの部分は、地球の観測に割かれており、気候やより広範な気象、そしてこの2つが環境に与える影響が主要なテーマとなっているという。
21世紀後半になるまで、火星に人類がたどり着くことはないのではないか
■理由その5:宇宙開発関連技術はまだ初期段階 前述した科学史家のローニアスは、著書でこう記している。(ライト兄弟がノースカロライナ州キティーホークで初めて飛行機を飛行させた1903年を起点として)「66年間で人類が月にたどり着いたのは驚異的な成果だ」と。 では、火星への有人飛行はどうだろうか? 世論調査の結果は一貫しており、火星への有人ミッションを支持する米国人の割合はわずか約40%ほどだと、ローニアスは著書で指摘している。ここまで言えば大きな驚きではないだろうが、同氏は、21世紀後半になるまで、火星に人類がたどり着くことはないのではないかと考えていると綴っている。 パイルも、火星への有人飛行は、今すぐにはとても手の届かない夢だとの考えだ。 火星の環境、そして宇宙空間に長期間滞在することが人体に及ぼす負荷について理解が深まれば深まるほど、火星へのミッションはより費用がかかり、大変な努力を要するものになっていく印象だと、パイルは語る。 宇宙飛行士を火星に運ぶ往復の航路では、何らかの手段で人工的な重力を作り出し、それを活用するのが理にかなっていると、パイルは考えている。しかし同氏によると、人工的な重力を作り出すには多額の費用がかかる上に、完全にこれからの技術だという。 パイルによれば、長期にわたる安全が保障される生命維持や放射線の遮蔽など、他の技術的要素に関しては比較的開発が進んでいる。しかし、1年以上地球に戻ることができない有人ミッションのためにこれらの技術を用いる場合、かなりの技術的進展が必要になるという。 では、火星探査にはどれだけの費用がかかるだろうか? 控えめに見積もって数百億ドル(数兆円)、最高で1兆ドル(約150兆円)の費用が、内容のある、安全な有人火星ミッションにはかかると考えられていると、パイルは語る。 短期的に見ると、有人宇宙飛行は今後も、NASAなど政府機関の職員や、冒険精神に富む大富豪が関わる領域にとどまるだろう。しかし、(英ヴァージン傘下のVirgin Galacticが提供しているような)弾道飛行を使った宇宙旅行であれば、ゆくゆくは、より平均的な収入に近い層の手に届くようになるだろうとパイルは見ている。
Bruce Dorminey