張本美和が秘める可能性。負ける姿が想像できない、パリ五輪女子卓球の“決定打”
決定打は、競り合いでも乱れがない「心の強さ」
この試合。序盤では競り合う場面があった。張本が大藤にリードを許す場面もあった。 それでも、すぐに“いつも通り”の状態に戻していく修正能力は特筆もので、圧巻のパフォーマンスといえる。この淡々といつもの状態に戻していく修正能力は、生まれ持った天性のものだろうか。ここまで心の乱れを感じない選手というのは極めて珍しい。 しかし、むしろ才能だけでやってきたような選手のほうが、土壇場で崩れるシーンというのを、卓球を含めた多くのスポーツファンは見てきている。 猛練習。それも、常に競り合いの場面を意識しての猛練習を積み重ね、場数をこなしながら養われるもの。それこそがどんな時でも一糸乱れぬ平常心であるはずだ。 張本美和も、そんな激闘の日々の中で今の姿を確立したのだろう。 卓球の場合、特に「逆転満塁ホームランの一振り」という一発はない。豪快なドライブもスマッシュでの一点も、台上のツッツキやストップでの一点も、一点は一点だ。その一点の積み重ねを勝負所で淡々と続ける精神状態をつくるしかない。何よりも難しい、その淡々と続ける能力を、今の張本美和は身につけつつある。 パリ五輪。もし、中国代表と“もつれる”シーンがやってきた時。中国選手は、思い切った“新しい引き出し”からの意外性のあるプレーを仕掛けてくることが多い。 その攻防をクリアしてしまう“日本側の決定打”は、もしかすると、そんな場面でも平常心を保ちながら「淡々といつも通りのことをできる」ことなのかもしれない。 そのように考えると、張本美和には、今まで以上に大きな期待がかかる。 生まれながらの天賦の才と、何度も何度も繰り返してきた猛練習の日々が、パリ五輪の女子卓球で伝説の一幕を生み出す予感は、日に日に高まっている。 その歴史的瞬間を、見逃すことはできない。 <了>
文=本島修司