業界初 リゾートバイト「1泊2日体験パック」登場 早期退職防ぐ
インバウンド(訪日外国人観光客)増が続く中、人気観光地の宿泊施設では、働き手の確保が大きな課題だ。住み込みで働く「リゾートバイト」を受け入れても、業務の負担などを理由に数日で辞めてしまうことが多い。働き手とのミスマッチを解消しようと、国内外の観光客が集まる富士山のふもと、山梨県富士吉田市の旅館が今年度、全国の宿泊業界で初めて「1泊2日リゾートバイト体験パック」を始めた。 【写真】体験パックでも給与がもらえる 富士吉田市の市街地に近い1971年創業の「ホテル鐘山苑」。館内10階にある3段に連なった湯船から富士山を裾野まで見渡せる「露天風呂 富士山」が人気の旅館だ。2011年10月から人材派遣の「グッドマンサービス」(本社・東京都千代田区)と契約し、リゾートバイトを受け入れている。23年は年間11人が同社から派遣された。 リゾートバイトは、仕事を覚えるための研修期間などを考慮した最短期間が設定され、1カ月以上の勤務を必要とする求人が9割以上を占める。鐘山苑は3カ月以上を条件に仲居を募集しているが、近年、1、2日で辞めてしまうケースが相次いだ。 池谷辰徳取締役(38)は、辞めたスタッフへのヒアリングで「館内が広くてわかりづらいから苦手」「料理説明を細かくできる自信がありません」といった意見があったと実情を説明する。 鐘山苑は、グッドマン社が派遣先ホテルや旅館で実施する新人研修から着想し、1泊2日の体験パックを提案。2024年4月、グッドマン社の求人サイト「リゾートバイト.com」で募集を始めた。 同社リゾート事業部の飯野浩士さん(32)は「すぐ辞めてしまうことを防ぎ、実際に勤務してみて『自分にもできそう』と思えば長期の就業につながる」とメリットを挙げる。 体験パックは年齢が近い先輩スタッフとペアを組み、1日目は午後1時から同9時ごろ(休憩1時間を含む)まで、宿泊客の荷物運びや館内案内、夕食会場での配膳や片付け。2日目は午前7時半から同9時半に朝食会場で配膳などをする。 仲居で接客リーダーの大杉かれんさん(26)は「一番の目的はミスマッチを防ぐことなので、お客様の荷物運びや客室案内、配膳など幅広い仕事に取り組んでもらうようにしています」。勤務時はマンツーマンでサポートする体制をとっている。 また、生活面のミスマッチも無くそうと、仕事以外の時間の過ごし方について先輩スタッフと雑談をする時間を設けている。 体験パックは鐘山苑の直接雇用で、アルバイトと同等の時給1200円。1泊2日の勤務時間は実働8時間程度で、給与は1万円前後になる。 12月までの約8カ月で10代、20代を中心に女性5人が体験パックで働いた。従業員寮などの受け入れ態勢が整わず、3カ月以上の就業につながったケースはまだないが、経験者からは「もう少し働いてみたい」という感想も寄せられた。 池谷取締役は「半年、1年と契約を延長してもらえると仕事の教えがいがある。体験パックで月に1人程度採用して長期の就業につなげたい」と意気込む。25年3月には従業員寮を新設する予定だ。 グッドマン社によると、リゾートバイトの応募は10代、20代が約7割を占めるが、少子高齢化の影響で若年層の人材確保が難しくなっている。同社の飯野さんは「働き方は多様化しているので、体験パックをきっかけに少しでも長く働いてもらえたら、業界全体にプラスになる」と期待する。【岩嶋悟】